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医師・医療関係者のみなさまへ

緩和医療に関するシンポジウム(シリーズ8)

府医ニュース

2017年2月22日 第2812号

患者の「思い」尊重した医療の提供を

 緩和医療に関するシンポジウムが1月22日午後、大阪府医師会館で開かれた。府医では、在宅医療における緩和医療体制の構築を目指して研修会やシンポジウムをシリーズで開催しており、今回は「人生の最終段階における医療」をテーマに討論が繰り広げられた。
 当日は、大平真司理事が座長を務め、最初に中尾正俊副会長があいさつ。緩和医療は「がんと診断された時」から提供されるものであり、がん患者が有意義に地域で生活できることが求められると前置き。在宅ケアの重要性を説き、本シンポジウムがその一助になればと期待を寄せた。
 第1部では、▽緩和ケア病院医師▽在宅医▽緩和ケアチーム看護師▽訪問看護師――の立場から、川島正裕氏(市立岸和田市民病院緩和ケア内科部長)、原聡氏(原クリニック院長)、武田ヒサ氏(近畿中央胸部疾患センター看護部/支持・緩和療法チーム)、野口忍氏(北摂総合病院退院調整担当看護師長)の講演が行われた。
 第2部では、池永昌之氏(淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院副院長)より、「地域医療の現場でACPを普及するために考えられる方策」と題する講演が行われた。まず、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは、将来の意思決定能力の低下に備えて、治療や療養をあらかじめ話し合うもので、「そのプロセスが重視される」と定義。患者が大切にしている価値観を引き出しながら、治療の選択や全体的な目標を立てることで、医療現場でも有効に作用するとした。また、ACPによって終末期における患者と家族の満足度が上昇すると指摘。がんと診断された時や抗がん治療中などは避け、「健康状態が安定している時」にACPに関して話し合うのが好ましいとの見解を示した。一方で、医療従事者を含めて「理解が不足している」との課題を挙げ、更なる啓発が必要とした。最後に、今後の医療は疾患の既往歴だけでなく、「患者自身を理解すること」が重要になると強調。地域連携においてもACPによって得られた患者の価値観や人生観を共有し、大事にすることが求められるとまとめた。
 第3部では池永氏が座長を務め、演者がパネリストとなり、フロアを交えてパネルディスカッションを展開。最初に出された意見は、「在宅医療に協力的な医師が増えない」「研修会等を開催しても顔ぶれが変わらない」といった現状を憂うとともに、ACPの前段階となる予後や病名告知を「本人が希望しない場合」の対応について問うものであった。パネリストからは▽研修会等に参加することで診療の幅が広がることを伝えていく▽訪問看護師の働きが一層重要になる▽診療報酬での担保も必要ではないか――などの見解が示された。そのほか、「緩和医療に携わることで医療の原点を再確認できる」「市民への啓発が必要」「ACPに関する実務的な研修を希望する」などの意見があり、パネリストらがそれぞれの立場から丁寧に応じた。

それぞれの立場から講演(第1部)
緩和ケア病院医師の立場から――川島正裕氏

 一般集団と緩和ケア病棟を利用した遺族を対象に、「緩和ケア病棟のイメージ」を調査したところ、▽医学的な治療をしない▽死を待つだけのところ▽寿命が縮まる――などのネガティブな意見が散見された。特に、「同病棟を利用した遺族」の方が否定的な見解を持っている割合が高く、「亡くなる」ことの捉え方に様々な思いが介在することが確認できた。当院では、緩和ケア外来において、症状の緩和とともに「患者の思い」を重視している。「家に帰れる」ということで喜ぶ方も多く、在宅医療の支援にも積極的に取り組んでいる。

在宅医の立場から――原聡氏

 在宅で看取りを行うためには、「人生の最終段階」であることを本人・家族が理解していることが重要である。患者自身は在宅療養を望んでいても、「家族へ負担をかけたくない」との配慮から、希望を伝えられないこともある。家族も将来の不安を抱えている。一方で、医療従事者は医学的判断のみに偏ってしまう。自宅で最期を迎えるためには、患者・家族の意見が一致し、多職種でサポートすることが求められる。患者の意思決定能力が低下した時、本人の思いに寄り添っているかを常に確認し、家族の覚悟を支えることが大切である。

緩和ケアチーム看護師の立場から――武田ヒサ氏

 緩和ケアにおいては、患者・家族の意思確認が重要であり、看護師には高いコミュニケーション能力が求められる。がん患者は病気の進行に伴い、治療方法や療養場所などの選択に迫られる。治療の経過ごとに患者の反応を確認し、身体症状だけではなく、生活の中にある要望・不安などの「思い」を読み取り、患者の価値観を尊重し、共有した上でケアを行うことが肝要である。今後の課題としては、▽時機に応じた適切なACPの実施▽看護師のコミュニケーションスキル向上▽医療者間での情報共有とその方法――などが考えられる。

訪問看護師の立場から――野口忍氏

 「エンドオブライフケア」とは、最期までその人らしい生と死を支え、見送った家族を支えるケアである。その実施のためにも早期からACPを行うことが重要になる。過去に、予後6カ月の末期大腸がん患者のケアにかかわった。医師とACPがなされていたが、スムーズな在宅医療が提供されているとは言い難い状況であった。訪問した際、患者自身の生活・人生に焦点を当て、心情を汲み取るよう努めた。結果的に信頼関係が築け、穏やかな最期を迎えられた。早期のACPとともに、死生観を含めた「医療者の自己研鑽」も必要であろう。