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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

顔の好き・嫌いは訓練で変わる……

府医ニュース

2016年11月30日 第2803号

 従来、ヒトの認知機能や行動は脳の特定部位の活動と対応しているとされてきた。例えば「他人の顔の好き嫌いの違い」も脳の異なる部位の活動による、という機能局在論である。しかし、そうではない、それは同一部位の異なる神経活動による差である、しかもdecoded neurofeedback (DecNef)という手法をもってすれば、訓練によって"好きでも嫌いでもない顔"を好き、または嫌いにシフトさせることも可能だとする研究が国際電気通信基礎技術研究所から報告された(PLOS Biology Sep 9, 2016)。
 脳活動の際に記録される信号は心や行動を表すcodeと考えることができる。このcodeを解読することによってヒトの心や行動を知ることをdecodingという。この研究ではリアルタイム機能的MRIと組み合わせて、脳の帯状皮質に現れる「好き・嫌いに関係するパターン」を被験者自身が学習し、自らそのパターンを誘導する、すなわち脳活動をある方向に導く訓練(これをDecNefという)を行うと、"好き・嫌いを意図的に変える"ことが可能であることを示したのだ。
 やっぱりそうだ……「顔の好き・嫌い中枢」は脳の同じ場所にあるのだ……「摂食中枢・満腹中枢」とは根本的に違うのだ。顔の好き嫌いなど、所詮一枚のカードの表裏……色づき、色あせる、ここでは神経活動もまた"儚き移ろい"に過ぎない……「何か悪い思い出でもあるのか?」という質問はスルーさせて頂く。
 好き嫌いを訓練によって変える、というのは興味深い。実際にこの研究の被験者は"neutrally preferred face"を好きか、嫌いかにシフトさせているのである。もっとも「ダメ、絶対無理!」という顔を好きにさせるのは、きっと難しいだろう。仮にできたとしても「我慢中枢」や「あきらめ中枢」の影響を除外できないと思う。まあ、あくまで私見だが……。
 それにしてもこの「脳情報のdecoding」、恐るべき技術である。むろん身体活動の支援ツールや様々な脳疾患治療にも役立つだろう。だがとことん発展すれば、思っていることが、筒抜けになるのではないか。もはや「しのぶれど 色に出でにけり わがこひは……」のレベルではない。心配される方も少なくないだろう。だが心配無用、必ず"decoding破り"の技法が開発されるはずだ。自分が思っているのと逆のパターンを誘導する技術である。なぜならば、「嘘のない世界」は「嘘に満ちた世界」よりはるかにストレスフルだからだ。