TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

府医健康スポーツ医学委員会より(後編)

府医ニュース

2016年11月2日 第2801号

スポーツと脳機能
府医健康スポーツ医学委員会 藤本 繁夫 委員長

 リオ・オリンピックも終わり、3年後の2019年には『ラグビーワールドカップ日本大会』、2020年には『東京オリンピック・パラリンピック』が開催されます。更に2021年には『第10回ワールドマスターズゲームズ2021』が関西エリアで開催されることが決まりました。この大会は、世界各国の30歳以上の成人・中高年の一般アスリートを対象とした"生涯スポーツのオリンピック"で、スポーツを愛する人ならば誰でも参加できる、また、元プロや五輪選手も出場可能なため、元アスリートと同じ舞台で戦うことができることも魅力です。このようにビッグ・イベントが予定され、アスリートから中・高齢者まで、"見るスポーツ"から"するスポーツ"に関心が高まっています。
 一流のスポーツ選手は身体能力だけではなく、一瞬で行う判断力も一流です。運動トレーニングを続けると、心・肺・筋肉の身体機能は良くなります。高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病や腹部肥満が悪役になっているメタボリック症候群では、中強度(ATレベル)の運動を30~60分、6~8週間続ける有酸素運動が行われています。有酸素トレーニングを続けると、収縮期血圧はマイナス7.4mmHg、拡張期血圧はマイナス5.8mmHg低下し、LDLコレステロールはマイナス5%、中性脂肪はマイナス3.7%低下し、HDLコレステロールが上昇することが報告されています。
 では脳機能についてはどうでしょうか?大脳の運動野や前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度は、若年者だけではなく高齢者でも、運動すると増加します。この増加に伴って、運動中の認知機能や注意機能が改善することが分かってきました。更に高齢者でも、歩行トレーニングを行うと、Mini-Mental State Examinationによる注意機能と短期記憶が改善します。現在、多くの運動継続と脳機能についての前向きな研究論文が世界中から報告されています。総合すると、運動を続けている人は運動していない人に比べて、認知症の出現する頻度は12~35%抑えられます。この運動には、「週3回以上の歩行を5年続けている」「1日60分以上の歩行を3年間継続する」「週2.5時間以上の歩行を10~13年間続ける」など様々ですが、いずれも軽い運動を続けることです。
 我が国では少子高齢化が急速に進み、現在65歳以上の高齢者は3296万人に達しております。そのうち12~20%に認知症が認められ、今後の社会問題になっています。私達は、歩行時でも歩道の段差に注意して、急に現れる車にも瞬間的に判断して危険を避けながら生活しなければなりません。この能力には足腰の筋肉やバランス機能を維持するなどの身体機能に加え、注意の配分と選択、瞬時の判断力などの脳機能を維持することが大切です。そのためには"見るスポーツ"に加え、"自らするスポーツ"を楽しみながら継続していきましょう。