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府医ニュース

2016年1月20日 第2772号

地域に馴染む地域医療支援病院

 「Af begets af」という言葉があります。これは、心房細動(Af)が心房細動の原因になる、すなわち、心房細動が長く続けば続くほど心房細動になり易い心房になっていくことを意味します。いわば、良くないリモデリング現象です。心房細動患者の約半数が無症候性であり、最大の合併症である脳梗塞に陥って初めて指摘されることも珍しくありません。脳梗塞になる前、リモデリングする前に治療して脳卒中を予防したいものです。
 学生時代に購入して、今も使っているものにJBLのスピーカーと紺のウールジャケットがあります。45年間主にジャズ鑑賞で使い続けたスピーカーは、スピーカーとケーブルがジャズを聴くのに最適なものに変化しています。久しぶりに一緒に聴いてくれた小学校からの旧友は、「これはオーディオの世界で言う、いい意味でのエイジング現象であり、非常に掛け替えのない貴重な機器になっているから決してケーブルなどを変えないように」と忠告してくれました。ジャケットも、革靴がその人の足に馴染んで変形していくかのように、持ち主の体型の変化に追随して誂える以上に馴染んでいます。これらは、馴染み現象というか、良い方のリモデリング現象でしょう。
 私どもの病院は、平成20年11月に地域医療支援病院の認定を受けました。地域連携を強化し、紹介率(93.5%)と逆紹介率(106.1%)は飛躍的に伸びました。23年1月よりインターネットによる診療予約システム「C@RNA」を、27年3月には施設が登録すれば同意の得られた患者の電子カルテを閲覧できる診療情報地域連携システム「万代e―ネット」を導入し、地域の施設とより密に連携がとれるようになりました。共同診療まではいきませんが、より地域に馴染んできている気がします。
 一昨年10月からの新しい馴染みの試みに、心房細動出張検診があります。これは、心房細動があるだけで抗凝固療法を開始すべき後期高齢者の地域住民を対象にしたものです。これまで7回実施して、延べ663人を検診しました。うち20人の方に心房細動が認められましたが、約半数は未治療でした。全員抗凝固療法を開始し、心房細動罹患歴の短い人には心房がリモデリングする前に肺静脈隔離術による根治術を施行しました。このような新しい形の地域医療支援病院が全国的に広がっていけば、脳塞栓を減じ寝たきりになる人を減らせるものと期待しています。

大阪府立急性期・総合医療センター副院長
福並 正剛
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