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医師・医療関係者のみなさまへ

時事

5大学・2行政医師会役員との懇談

府医ニュース

2015年11月25日 第2767号

事故調の最大の核は病理医の確保

 平成27年10月1日に医療事故調査制度(以下、事故調)が開始された。日本医師会は都道府県医師会の中核的役割を確認し、大阪府医師会では事故調支援委員会を設置。最適な支援方法を模索すべく各支援団体へアンケートを実施した。また、10月6日には支援団体間の連携・協力体制の実務組織として支援団体連絡協議会が設立された。このような動きの中、11月5日に開催された在阪5大学医師会役員・2行政医師会役員と府医勤務医部会役員との懇談会は、それぞれ支援団体に属する各大学・団体がどのような対策で臨んでいるか、事前アンケートの結果を参考に進捗状況を確認する意味もあった。制度開始からわずか1カ月の間に、手際よく進められてきた論議も、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」で明らかになっていた問題点を再認識することになった。

大学の機能発揮事故調に欠かせず

 懇談会は例年この時期に開催されているが、事故調を同懇談会で取り上げる必然性があったのは、時期が一致したということだけではない。事故調を進めるに当たって、医師会が主に行う取り組みだけでは限界があり、制度の内容充実のためには、研究教育機関としての大学を抜きに語れない。懇談会で議論された事前アンケートの内容は、事故調に関する、1.解剖の実施、2.Ai支援、3.遺体の保管、4.専門家の派遣、5.院内医療事故調査委員会の設置状況――であり、主に協力の可否を問うた。
 まず、各々の院内医療事故調査委員会はほとんどの施設で対応が完了していた。しかし、余力としての院外調査への協力は、「条件次第では協力する」との回答が最多であった。協力できない理由として、現在の人的資源からみて対応できる体制が十分ではないことなどが挙げられた。更に、各施設から送られる遺体の病理診断に関し、遺族から責任追及があるのではないかとの不安が根底にある。一方で、事故調をフル回転させなければならない現実があり、かつ現場の医師にその責任が課される脅迫的方法論には大きな問題点がある。
 制度が整わない中での見切り発車に政治的な思惑も感じられ、矛盾に満ちた事故調であるが、日医の渾身の努力で、それなりの成果も出せており、国民の要望にも叶ってきている。この余波が今回、医師会から大学に押し寄せた観は否めない。「大学としての役割」「病理学的診断のできない医療施設での調査の在り方」「責任追及の方向性」などを示す必要がある。また、大学における事故調の最大の核は、病理医をいかに確保していくかであろう。医師会は大学と協力して、背景に存在する医師の偏在を解決することが必須である。
 懇談会では専門医制度も並行して議論された。実際、バランスのとれた専門医の配分は病理医の確保にもつながるのであろうが、事故調と専門医制度は現在のところ結びついていない。更に、事故調ではこれを通り越して、とにかく病理医の絶対的確保という喫緊の課題があり、専門医制度改革を待っていられない。また、死後病理診断の責任追及は、大学だけで解決できるような代物ではない。これらに対して医師会は、大学とともに、あらゆる方法を駆使していかなければならないのである。病理研究や地位確保に十分な予算が確保できるよう、政府に働きかけなければならないし、事故調に関連した研究室の新設も必要であろう。加えて、病理体制の充実を世論に訴える啓発活動を増やすことも重要である。病理診断の責任追及に関しては、医師会は世論で大学を守らなければならない。今回の懇談会では事故調に控える大きな問題を垣間見たが、これを契機に、我々の隠れた力を最大限に引き出すことが必要だろう。(晴)