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勤務医の窓
府医ニュース
2015年10月21日 第2763号
10月から医療事故調査制度が施行されました。医療法第6条の10で「医療に起因し、管理者が予期しなかった死亡」に対して院内調査を行い、医療事故調査・支援センターへ報告する義務が科せられました。
本年、入院患者の突然死が2件ありました。両者とも現病歴も薬剤歴もなく、いずれも医療に起因しない予期できない死亡でした。死亡時画像診断(Ai)により死因が特定され、病死として死亡診断書を作成することができました。一例目は、脳疾患や心血管臓器出血などの所見はなく、心筋梗塞病巣と疑われる所見から急性心筋梗塞としました。二例目では遺族の不信感がありましたが、同意の下でAiを行い、明らかな心筋肥大が認められました。遺族への説明で、近親者にも心臓病の方が突然死されていたことを打ち明けられ、死因にも納得されました。遺族とともに死因究明に努めることにより、医療事故でなかったことを証明でき、訴訟を回避できたように思います。
しかし、Aiの確実性は20~30%との見解もあります。死因究明できなければ管理者としてどうすればよいのでしょうか? 遺族が医療に対する不信感のため医療過誤と訴える場合も考えられ、管理者は医療事故調査報告をせざるを得なくなるのではないでしょうか? 「医療の不確実性」からは死因について医療の起因性を絶対に否定できるものではないと思います。
今回、「医学の不確実性」という中川米造先生の晩年の著書を知りました。学生時代に医学概念の講義を受けたことを思い出し、背が高くすらっとして、時折、面長なお顔を下向きにされ考え深げにお話しされる姿が浮かんできました。著書の中で医学の確実性は約20%と記述されています。信頼性、緊急時の行動原理、不確実性と希望というコラムで、インフォームド・コンセントの重要性とともに、「不確実性を患者に『分からない』と言わないことが多くかえって不安を与える。患者心理は羊水の中にいる胎児が母親に抱く『原初的信頼性』で『父親主義パターナリズム』ではない。『たとえ99.9%の不幸と思われても0.1%の希望がある』と患者に不安を与えないことが大切である」――と述べられています。緊急時の医療現場であればこそ、患者とのラポール形成の重要性を語られていたのかもしれません。医療の不確実性は医師の裁量権と信頼性で担保されなければ、医療安全を追求するあまり若い医師の守備範囲がますます小さくなってしまい、医療現場、特に救急や外科診療や医療連携に支障が出てくることが危惧されます。
今回経験したような症例は高齢化とともに全国的に増加しているものと思われます。「予期できない死亡」に対峙する医療現場では死因究明は待ったなしの状況であり、冷静、迅速に解決するためには遺族に真摯に寄り添い、ラポール形成を構築して遺族とともに死因究明ができるかどうかにかかっているのではないかとつくづく思います。
大阪府医師会勤務医部会常任委員
草野 孝文 ――1269
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