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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓 Returns

ジャイアント・パンダの進化に学ぶ省エネ術

府医ニュース

2015年9月30日 第2761号

 この7月Science誌に中国科学院の研究者による「Exceptionally low daily energy expenditure in the bamboo-eating giant panda」という論文が発表された(2015 Jul 10;349(6244):171-4)。超一流誌に掲載されるところは、さすがにパンダである。ジャイアント・パンダ関連の論文は非常に多く、「Medline」で検索すれば1800編以上がヒットする。日本も負けてはいられないと思って「オオサンショウウオ」「トキ」も検索してみたがそれぞれ14、23編と2桁の差があるのは残念である。「そんなところにナショナリズムを発揮しても仕方ないだろう」というご意見、今回は素直に聞いておく。
 さて、ジャイアント・パンダはネコ目、クマ科、ジャイアント・パンダ属に分類される哺乳類で、もともと生粋の食肉目のはずである。ところがパンダはゴロゴロしながら日がな一日、竹ばかり食べている。ネズミを捕ったり、川でサケをすくったりしないのである。しかもパンダの消化管は草食用に適合しておらず、いくら大量の竹を食べ続けても、摂取エネルギーとしては、たかが知れている。しかるになぜ中国のパンダは数百万年生き残ってきたのか、という疑問があった。
 著者らは5頭の飼育されているパンダと3頭の野生パンダの1日エネルギー消費量を測定した。飼育パンダの平均値は5.7メガジュール/日、すなわち約1200キロカロリー/日であり、哺乳類としての予測値のわずか37.7%であった。野生パンダの1日エネルギー消費量も1490キロカロリー/日(予測値の45%)に過ぎなかった。更にパンダの甲状腺ホルモンレベルを検討したところ、T4、T3はそれぞれ同サイズの有胎盤類の動物に比較してそれぞれ46.9%、64%程度に低下していた。またパンダは重要臓器のサイズが小さく、著者らはこれらの形態学的、生理学的、行動学的変化に加えて甲状腺ホルモン産生に重要な役割を果たすDUOX2遺伝子の変異が中国におけるパンダ生き残りに導いたと推論している。
 なるほど、運動量を極力抑え、消化吸収効率は悪くとも環境において不足しない竹を常食とし、代謝を抑制して生き延びるという道もまた、数百万年の進化の在り様のひとつなのだろう。しかしミミズクも負けてはいない。病を得て以来、運動量も減ったが食事量も減った。だがけっこう元気にしている。考えてみればパンダが百万年単位で辿った進化の道をわずか1年程度で達成した。
 これぞ適応の勝利と言わずして何と言おう。えっ、「それは適応じゃなくて単なるグータラではないか!」だって? Perhaps you are quite right……