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医療を営利が支配する(4)ゾーニング

府医ニュース

2015年8月5日 第2756号

 都市計画等の土地利用計画における各種区域の指定をゾーニングという。農業地、住宅地、商業地、オフィス地区などの区分けのことである。シンプルな都市構造のゾーニングは人間の活動を抑制し住みにくい魅力のない非人間的な都市を生み出す、と宇沢弘文氏は反対した。宇沢氏によると、20世紀の米国ではル・コルビジェの「輝ける都市」に影響された近代都市が誕生し、それらは広くまっすぐな道路、高層ビル、機能的に区分けされたエリアという機能優先で設計されていた。幾何学的に美しい建物と十分に距離をとった区域との間に緑地があるのにも関わらず、この思想が実践に移された都市は、犯罪が多く暮らしづらいものになっていた。その合理的な都市計画の問題点を指摘したのがジェーン・ジェイコブスである。ジェイコブスは米国の大都市が死んでしまったのはコルビジェの「輝ける都市」に基づいて都市の再開発が行われたせいであるとし、まだ米国に残っている住みやすい都市の4つの特徴として、都市の道路は狭く、各地区には古い建物ができるだけ残っている、都市の役割は一つではなく多様性が残っている(ゾーニングの否定)、各地区の人口密度が高い、というものを挙げた。
 先日、民間有識者のとある会議が、大都市で高齢者の受け入れが困難となるので、施設や人材面で医療や介護の受け入れ機能が整っている全国41地域を移住先の候補地として示した。住み慣れた住居で最期を迎えるというのも在宅医療の一つである(小生は在宅医療の本筋)と思うのだが、平成のゾーニングによって移住した先の集合住宅で最期を迎えるのが在宅医療の形になるのかもしれない。施設死や移住先での住居での死を否定はしない。しかし、昨今、商業的な形で施設入所を進める可能性のある政策(ヘルスケアリートなど)もあり、計画的な高齢者移住政策にはやはり賛同できない。なぜなら、このゾーニングと市場主義が合わさり、医療が更に荒廃し移住先の都市が死ぬことを予想できるからである。労働人口ではない高齢者を排除した大都市経済特区の未来も同様である。(真)