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医師・医療関係者のみなさまへ

医問研特別講演で二木立氏

府医ニュース

2015年7月1日 第2753号

医療制度の方向性など検証

 大阪府医師会は6月6日夕刻、大阪市内で医療問題研究委員会特別講演会を開催。伯井俊明会長が座長を務める中、日本福祉大学学長・二木立氏により、「第3次安倍内閣の医療改革と『地域包括ケアシステム』・『地域医療構想』」と題する講演が行われた。

第3次安倍内閣の医療政策――その分析と予測

 二木氏は昨年末の衆院選を分析した後、安倍晋三政権に言及。外交面では対米関係の修復が図られたと述べる一方、「アベノミクス」の成長戦略に関しては経済効果を疑問視。政権内での路線転換の可能性を示唆した。
 成長戦略における医療改革の優先順位は低く、政策の基調は「公的医療費抑制政策の徹底」「医療への市場原理の部分的導入の拡大・医療の営利産業化政策」であるとした。ただし、財務省の発言力強化を懸念。4月27日の財政制度等審議会財政制度分科会で出された社会保障改革に関する提案を読み解き、医療保険や医療提供体制の理念・根本原則を覆すものと批判した。これらは「財政健全化計画等に関する建議」(6月1日)にも盛り込まれており、動向を注視したいとした。また、消費税率の再引き上げ延期に伴う財源不足により、医療・介護改革の財源圧縮や患者負担増を憂慮。次年度診療報酬のマイナス改定は濃厚と予測した。そのほか、受診時定額負担や市販品類似薬の保険給付範囲の見直しなどにも触れた。
 患者申出療養、地域医療連携推進法人制度(仮称)については、市場拡大が医療費増加をもたらし、「公的医療費の抑制」という国是と矛盾すると指摘。医療への市場原理導入は限定的と見通し、国家戦略特区の動きとあわせて考えたいとした。TPPでは、米国政府や多国籍製薬企業が交渉過程で混合診療の全面解禁を求めないと明言していると紹介。日本の現行制度の枠内での利益拡大に方針転換していると語った。

今後の医療提供体制 ――地域包括ケアシステム・地域医療構想ガイドラインを読み解く

 地域包括ケアシステムに関しては、時系列から定義を整理。政府文書の初出は、「2015年の高齢者介護」(高齢者介護研究会報告書/平成15年)であるが、当時は介護保険制度改革に位置付けられていたと述べた。その後、19年の地域包括ケア研究会報告書で同システムが定義されたと紹介。介護保険法第三次改正を経て、野田佳彦内閣の「社会保障・税一体改革大綱」閣議決定に文言が盛り込まれたとした。25年発表の「社会保障制度改革国民会議報告書」では、「治す医療」「病院完結型医療」から、「治し、支える医療」「地域完結型医療」への転換が図られ、医療界に同システム構築への積極的な関与を促したと指摘。同年成立の社会保障改革プログラム法では、同システムの法的定義がなされ、26年度診療報酬改定では「地域包括ケア病棟入院料」が新設されたと説明した。同年成立の医療・介護総合確保推進法などにより、同システムは病院医療を含む医療・介護一体改革の中心的な柱になったと述べた。
 更に二木氏は著書「安倍政権の医療・社会保障改革」(勁草書房)を基に検証を進めた。同システムの実態は「ネットワーク」であり、主な対象は都市部と強調。今後も亡くなる場所は病院が中心で、老人施設等がこれを補完すると述べた。
 「地域医療構想ガイドライン」に関して二木氏は、字義どおりでは「一般病床は増加する」と読み取れるとした。しかし、医療費適正化計画の見直し、財務省・経済財政諮問会議からの圧力もあり、病床数は微増または微減と推測。今後の死亡急増時代に、厚生労働省が「患者難民」「死亡難民」といった社会問題を生じさせることはなく、回避に向けて最大限に努力すると予想した。更に、各構想区域の病床数は国の施策だけでなく、各都道府県の財政力と政治的な力関係にも影響されるとした。

医師会が国民の声を届ける――植松顧問

 コメンテーターを務めた植松治雄顧問は、国には医療費抑制の思惑があることを留意すべきと強調した。また、講演に加えて、認知症対策を課題に列挙。特に、都市部では地域コミュニティの希薄さもあり、「介護難民」の急増を懸念した。今後も地域住民の声に耳を傾け、政策に反映させるべく、医師会が積極的に活動しなければならないと総括した。