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医師・医療関係者のみなさまへ

勤務医の窓

縁の上下の公衆衛生

府医ニュース

2015年4月29日 第2746号

 行政医の道に迷い込んで十数年が経過しながら、いまだに出口が見えない日々の雑感を書かせていただきます。
 「公衆衛生」とはC. E.A.Winslowの定義では「組織化された地域社会の努力を通じて、疾病予防、生命延長、身体的・精神的健康と能率の増進を図り、すべての住民に生来の権利である健康と長寿を得させるため、組織的に上記の成果をとりまとめようとする科学及び技術」とされています。しかし、私自身はその高邁な精神とはかけ離れ、日々発生する諸問題のモグラ叩きに追われつつ、エボラ出血熱が発生した場合に備えたマニュアルの整備や訓練、地域の健康課題の抽出と対応策の検討に加えて、予算がどうの、決裁がどうのといった「お役所仕事」をこなす毎日を過ごしております。とはいえ、自分なりにやり甲斐を感じてはいますが、臨床や研究と違って何をしているかが見えにくいのは仕方のないところで、妻は友人から「おたくの旦那さんって何科のお医者さん?」と聞かれると、説明するのが面倒なので「モグリ科のお医者さん」と答えているそうです(笑)。
 私が初めて保健所に勤務した頃は、保健所の役割は「母子保健」や「難病対策」のほか、「感染症対策」や「食中毒・環境汚染対策」等の健康危機管理対策、つまり地域で発生する健康危機事象の発生を未然に防ぎ、発生時にはできるだけ影響を少なくする、といった市民の見えないところで健康を守る「地域保健の縁の下の力持ち」的な仕事が中心でした。
 しかし、近年、保健所は「地域保健の拠点」として、むしろ目に見える場面での連携の調整役や企画立案業務が求められるようになりました。すなわち、これまでのように縁の下で支えているだけでなく、保健所自身が舞台に上がって、関係機関をうまく調整しつつ、自ら主体的に必要な事業を実施していく姿勢が求められるようになったと言い換えてもいいのではないでしょうか。
 医療制度改革をはじめ、超高齢化社会に向けて様々な動きが活発化する中で、保健所に求められる役割は今後とも更に増えるものと思われます。
 今後、どのような場面でも関係機関から信頼され、調整役および連携のキーパーソンを務めることができる保健所を目指して、これからも努力していきたいと考えています。
大阪府守口保健所長 森脇 俊  ―― 1264