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医師・医療関係者のみなさまへ
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ミミズクの小窓 Returns
府医ニュース
2015年4月15日 第2745号
2014年ノーベル医学生理学賞は、「脳内における空間認知を構成する細胞の発見」により3人の研究者に授与された。〝脳内GPS〟の発見である。オキーフ博士はラットの海馬に特定の位置に来た時に活動するPlace cellを発見し、脳内GPS研究の端緒を開いた。メイブリット&エドバルト・モーセル両博士は、位置と位置を結ぶ六角形で構成される座標を認識する細胞を見いだし、Grid cellと名付けた。この細胞は海馬ではなくその近傍にある。「Sea horseの傍? じゃあ White horse?」とおっしゃる方、昨日の晩飲み過ぎである。この細胞は嗅内皮質というやや辺鄙な場所にある。この脳内GPSはヒトでも研究が進み、認知症における徘徊はこの機能の低下が関係しているという。ミミズクのみるところ、健常者でもこの機能にはかなり差があるように思われる。いわゆる〝方向オンチ〟の責任部位に違いない。
ヒトには空間認知以外のナビゲーション機能も間違いなく存在する。ひとつは時間についてのナビゲーション能力である。ヒトは悠久の時間の流れの中で自分の立ち位置を知ることができる。この機能を十字以内で端的に表現すれば、「川の流れのように」または「時の流れに身をまかせ」となる。いまひとつはヒト集団における精神心理的立ち位置を理解する機能がある。簡単に言えば〝場の空気を読む〟能力である。この能力の個体差も非常に大きい。大阪府医師会会員諸兄姉も会議などで「今、あいつのSPECT所見がみたい」と思われたことはないだろうか? それが可能なら空気を読む細胞の所在も容易に分かるのだが……「それより自分のSPECTを撮ってみろ」と言うご意見もあるかと思うが先に進む。
ゴーギャンの名画に「我々はどこから来たのか・我々は何者か・我々はどこに行くのか(1897―1898:ボストン美術館所蔵)」がある。人類永遠の哲学的テーマであろう。このテーマを考える上でも、まず自らの立ち位置を知ることが第一歩である。つまりはそういうことだ。「どういうことだ!?」と言うご意見もあるかと思うが聞こえないふりをしておく。ところでミミズクは突然悟った。「我々は我々以外の何物でもなく、昨日から来て、明日に行くのだ」……なんだ、簡単なことだったのだ。最近は調子が良いせいか、毎日のように悟るようになった。「一日一悟」、皆様もぜひ励行して頂きたい。