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時事

群馬大での事故調事例に学ぶ

府医ニュース

2015年4月1日 第2744号

法律面や遺族への気遣い含め慎重に対応

 群馬大学医学部附属病院は2月12日付で、腹腔鏡下肝切除術事故調査報告書を公表した。本件に関連し、亡くなられた方々に哀悼の意を捧げる。
 同病院では、平成26年6月末までに予備調査を行うとともに翌7月、学内7人と学外5人の事故調査委員会を立ち上げ、昨年末の中間報告および改善報告後、体制に対する指摘を受けて最終報告を取りまとめた。その内容は、医療事故調査制度(事故調)を強く意識した文言である。術前評価、インフォームド・コンセントの記載、診療記録、症例検討、診療科内での把握、不適切な保険請求、病院の管理体制――などの不備とともに、未然防止策の記載が大勢を占めた。しかし、これらの問題点と患者死亡の因果関係については、「疑わしいが決定的なミスがあったわけではない」としている。更に、第2外科の肝胆膵外科チームが医師2人と少人数であり対応力を欠いたとして、今年4月から内科・外科のいわゆるナンバー科を臓器別診療科に再編、院内に死亡症例検証委員会やコンプライアンス推進室の設置、臨床審査委員会を改組する将来体制を公表した。執刀医については、死亡事例に関して調査委員会で調査を進めるとともに、今後の処分に言及した。
 3月3日に同病院は記者会見を開き、遺族側弁護団は6日にコメントを発表。調査内容は遺族に十分な説明と聴取がなされていないこと、カルテ記載の不備、死亡患者の保険書類への病名の虚偽記載は刑事罰に値すること、事前評価の不備は重大な過誤であること、インフォームド・コンセント欠落は同意なき違法な侵襲行為であること、稚拙な技量、死亡事故を把握できない診療体制側の問題――を指摘した。
 同病院調査委の発表内容は医療関係者には分かりやすい。提示された体制改革が機能するかどうか議論の余地は残るものの、院内調査は我々が描く形に近く、先鞭を付けた意義は大きい。しかし、遺族側弁護団は発表に一定の理解を示しつつも、医療団に厳しいコメントを綴った。
 医療者側が未来指向であるならば、遺族側は亡くなった時点までをたどる過去指向である。いくら未来への可能性を説いたところで患者は帰っては来ない。そこで、当事者の犯罪性を立件し、死亡した患者へ報いたいと発想する。論点がすれ違う中で、同病院は体制の不備を認め、それに全エネルギーを投入した。まず全体像を作った後、個々の事例に言及する段取りであったのだろう。病院長が公表した内容は論理的であり、学会などでは論議が深まるであろうが、それすら遺族の悲しみに応えていない。遺族側は個々の経緯を知りたいのである。遺族には真摯な姿勢で応じ、論理性だけで解決できないことに心を尽くすべきである。
 最終報告には、カルテ記載は言うに及ばず、公表された文体にも言い切ったような文言が散見される。当然、遺族は感情を害し、追及姿勢で論理に穴を見付けようとする。その一方で、大学側に万全の態勢は見られない。実際、遺族側が公表した同意書には、『一定のリスクを伴う処置ですが、十分注意の上行います』と記載されてはいるが、現時点では論理が欠落している。
 もうひとつの問題として、調査委報告は体制と個人の非を認める構成になっているが、法的に決着しないうちに執刀医を犯人扱いしてよいのかという疑問が残る。病院が雇用者を擁護すると世論から批判される風潮にあるが、一方で雇用者の人権にも配慮が必要である。調査委で非と結論しても、発表の場で断罪することの是非は問われるのではないか。
 医療関係者が医療事故の当事者となった際には、法律面のみならず、遺族への気遣いを含めて慎重に対応し、病院長が公表しなければいけないこと、公表時の不明点は日時を約束して調査報告すること、そして場合によっては弁護士が代弁することも必要だろう。特に直接的表現である医学用語の行使は、時として感情を逆なですることもあり得るのだ。
事故調の在り方議論が大詰めを迎える中で、群馬大学医学部附属病院はひとつの雛形を提示したと言える。
(晴 3月18日記)