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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

高学歴者が物忘れを自覚するとき

府医ニュース

2015年2月18日 第2739号

 午年が明け未年がきた。「またひとつ歳をとっちゃたな~」とおっしゃる方、全く同感である。そうは言っても、新進気鋭の先生方、中堅バリバリの先生方はまだ実感がなかろう。だが「大昔新進気鋭」「一昔前バリバリ」の先生方は、ともすれば年齢を意識する時があるだろう。「いやぁ~最近歳のせいか、ときどき度忘れするわ~」「そんな~誰でもそうですよ~。先生はまだまだお若いですよぉ~」「そうかな~、よくそう言われるんだけど~ぎゃはは~」なんて会話をされることもあるかと思う。しかし、「ぎゃはは」とか言っている場合ではなさそうである。
 認知障害や認知症が脳卒中の晩期合併症となることは良く知られている(Lancet Nuerol;4:752,2005)。むろん脳卒中による脳実質障害が認知障害に結び付いても不思議はない。一方、脳血管障害の成り立ちを考えると、脳卒中と認知障害は病態を共有しているともいえる(Int J Stroke;7:61,2012)。実際、最近のメタアナリシスによれば、認知機能障害が存在すると脳卒中のリスクが高まるという(Stroke;45:1342,2014)。
 ところで研究での「認知機能障害」はMMSEなどの客観的認知機能スケールで判定されることが多い。しかしこの手の認知機能検査では、高学歴者が高い得点を取りやすい可能性がある。では”主観的な物忘れ”(subjective memory complaints)を指標にしたら高学歴者において、より早期に脳卒中の発症リスクを判定することが可能になるのではないだろうか、という発想による研究がオランダから発表された(Stroke Online:Dec.12,2014)。対象は55歳以上の9152例、観察期間は平均約12年である。果たして結果は、“主観的な物忘れ”の存在は脳卒中発症のリスクに関連していた。高学歴者では特にこの関連が顕著であり、ほぼ40%のリスク増加が認められたという。”たかが物忘れ”と侮るなかれ。物忘れに気付いたら生活習慣の見直しや、場合によっては画像を含めた健診を受けた方が良いかも知れない。
 一方、人は昔を忘れることで生きていける、と言えなくもない。名画「Casablanca」でハンフリー・ボガートは「Where were you last night?」と問われこう答える。「That's so long ago. I don't remember.」……しぶい……だがかなりの高リスクとみた。