TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

府医・医師協・医師信主催文化講演会 宝田 明氏激動の半生を語る

府医ニュース

2015年2月4日 第2738号

俳優として人間として

 平成26年度文化講演会(主催:大阪府医師会・大阪府医師協同組合・大阪府医師信用組合)が1月17日午後、府医会館で開催された。この催しは会員および家族、医療機関従業員の福利厚生を目的に4年度より実施。近年は府民にも聴講の機会を設け、今年度は約180人が参加した。
 司会進行は益田元子・府医理事が務めた。開会にあたり、主催者を代表して高井康之・府医副会長があいさつ。先の総選挙の結果を踏まえ、経済最優先の方針の下、医療を取り巻く状況は一層厳しくなると見通した。国民の命と健康を守るため、医師会としても声を上げていくと力を込めた。
 引き続き、満場の拍手に導かれて俳優の宝田明氏が登壇。「俳優として人間として」と題して激動の半生を振り返り、命の大切さと平和への思いを熱く訴えた。

終戦・引き揚げ

 宝田氏は旧満州ハルピン出身。国民学校5年で終戦を迎えたが、旧ソ連軍による満州侵攻に遭遇。婦女子を含む在留邦人に対する略奪や暴行の数々を目の当たりにした。自身も不明の兄の捜索時、腹部に受けた銃弾を、元軍医に麻酔なしで除去してもらうなど、壮絶な体験談を告白した。そして、満州からの引き揚げの途上、親戚を頼りに大阪に立ち寄った際のエピソードを紹介。通りがかった果実店の女性から、温かい言葉とともに柿を分けてもらったと語り、人の「情」に初めて触れることができたと述懐した。兄は旧ソ連軍の拘束を受け労働を強いられていたが、密航船で命からがら帰還し、故郷で再会を果たしたと報告。当時の混乱を知る者として、残留孤児の境遇についても思いを馳せた。

「ゴジラ」主演で銀幕スターに
舞台でも活躍

 宝田氏は、東宝俳優として昭和28年にデビュー。3本目の映画出演作が初主演となる「ゴジラ」(昭和29年)であり、961万人もの驚異的な観客動員を達成した。これまでに28シリーズが製作され、昨年にはハリウッド版も日本で上映された。宝田氏はヒットの要因として、「単なる怪獣映画にとどまらなかったから」と分析。ビキニ環礁での第五福竜丸の水爆被爆が映画製作の端緒であり、ゴジラが核の被害を蒙った怪獣として描かれ、核廃絶のメッセージも込められていたと述べた。
 ミュージカル俳優としても名高い宝田氏は、平成18年より日野原重明氏の企画・原案の作品「葉っぱのフレディ」(レオ・バスカーリア作)に医師役として出演。一枚の葉の短い生涯を通じて生命の尊さや循環が描かれ、命の大切さや地球環境の重要性をも示唆する内容であると語った。8月に大阪公演が予定されている。

伝えなければならないこと

 宝田氏は、過酷な戦時経験を持つひとりとして、「戦争は、絶対に起こしても加担してもいけない」との思いを強調。「ひと握りの人間によって国家の命運が左右されることがある」として、自身は「戦争しない」行動を選択すると述べた。一方、年末にテレビ番組のインタビューでこの趣旨の発言をしたところ、政治的な内容と受け取られたと吐露。しかし、戦争を知る世代のひとりの人間として、命を大切にする思いを積極的に伝えていきたいと締めくくった。