
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
府医ニュース
2014年11月5日 第2729号
憲法38条1項には、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」との自己負罪拒否特権が定められている。しかし、広尾病院事件の最高裁判決は、『医師が届け出義務の履行により捜査機関に対し自己の犯罪が発覚する端緒を与えるなど不利益を負う可能性があっても、医師免許に付随する合理的根拠のある負担として許容される』とした。
当時の世論の風潮に流され、たとえ憲法原理に反しても医師の人権は制限されるという暴論としか言いようのない判決であった。
それでは事故調への届出はどうなるのだろうか。対象は「予期せぬ死亡」であり、そこに「過誤」の有無は関係しない。改正法は院内調査中心主義であり、届出は当該医療機関に限られることからも、その医療機関で予期され得なかった死亡が対象となるだろう。これが具体的にどのようなケースを指すのか、出来る限り明確にしておく必要がある。
診療関連死については2008年4月の厚生労働省第三次試案で、第三者機関への届出対象は明らかに誤った医療行為か、一定の確率で発生する合併症等では説明できない予期せざる死亡(疑い含む)であり、届出された場合、医師法21条に基づく異状死届出は不要とした。これに日本外科学会等も基本的に賛同しているが、厚労省があくまで医療安全推進を目的としても、警察や法曹界、市民団体などが同じ意識を持っている訳ではない。
そもそも医療安全活動は改善の可能性を検討し実現するもので、その議論では様々な改善点が指摘される。この内容がひとたび証拠として司法の場に出されたなら、容易に有責の証拠とされてしまう。医療安全の基本となる非懲罰性原則に関して、日本はグローバルスタンダードに遠く及ばない後進国であるという現実がある。
故に最低でも、WHOガイドラインや米国法等で定められている秘匿性原則の確立が絶対に必要である。さもなければ、事故調は、医師法上の行政処分拡大の道具になり、医療過誤賠償請求拡大によるビジネスチャンスと待ち構えている向きを喜ばせるだけになりかねない。(続く)