TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

本日休診

本来の目的を忘れるな

府医ニュース

2014年10月29日 第2728号

 担当する産業医先において、会社健診結果報告書のコメントだけでは受診勧告が不十分なため、要受診者の面談を行うようにしている。しかし何度言っても受診しない該当者がおり、報告書に加え紹介状を渡すようにしたところ、効果も上々であった。
 同企業の他の事業所では、会社健診で異常所見が見つかった場合、初診にかかる自己負担分を負担するというルールも存在した。当方が担当する本社でも同じにしてほしいという声が上がり、産業医が紹介状を書けば初診の自己負担分を会社が持つという全社共通ルールができた。社員が紹介先で十分な配慮をという思いを込めて紹介状を書いていただけに、「紹介状=企業負担」という新たな認識に納得のいかないものを感じていた。
 予想通り、報告書で受診勧告をした社員の中に「タダになるので紹介状を」と要求する人が現れた。更には、面談をボイコットし紹介状を要求する人、「面談をしたのだから産業医が受診勧告をしたのと同じだ。自己負担分を返せ」と血相を変えて怒る人も出てきた。会社健診自体が各々の健康を守るものという考えがどこかに行ってしまったようだ。安全衛生会議で、社会保障としての医療保険制度、そして健保組合の歴史を講義することにした。
 大病院の紹介状なしの初診に対し、特別料金を別途請求するところがある。既に当方には、診察はいいから紹介状だけ書けという患者が現れており、大病院も「近くの医院で予約を取ってもらってください」と、診療所を予約機関のごとく扱う話もあり、大病院が専門治療に専念するという本来の目的が変わってきている。地域の各病院が別途特別料金を取ることに対しては、それぞれの事情や現実があるから仕方ない面もある。しかし、近々導入が検討されている、大病院の紹介状なし受診の初診料全額負担案というような、保険診療システムとして変えることは問題だと思う。経済誘導による変更は、本来の目的が失われ、患者と医師の関係を変容してしまうことが多い。必要なのは社会共通資本である医療を皆で支えるという意識なのに。(真)