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医師・医療関係者のみなさまへ

在宅医療連携拠点支援事業講演会

府医ニュース

2014年7月30日 第2719号

地域や医療介護の連携基盤づくり

 大阪府医師会は、地域の実情に即した在宅医療提供体制の構築に向け、郡市区医師会等による多職種連携の拠点整備を支援している。7月5日午後には、府医会館に会員、訪問看護師や行政関係者ら330名を集め、平成26年度在宅医療連携拠点支援事業講演会を開催。東大阪市3医師会と北区医師会およびベルピアノ病院(堺市)の取り組みが紹介された。

多職種連携・後方病床・コーディネーター

 本講演会は、在宅医療ネットワーク支援会議会長の黒田研二氏(前府医介護・高齢者福祉委員会委員長)と宮川松剛理事が座長を務め進行。「住み慣れた街でくらし続けるために――在宅医療と病診連携」と題し、在宅医療における病院と地区医師会(在宅医療連携拠点)の役割分担に資するよう講演が行われた。

地域連携の取り組み 東大阪市3医師会

 布施・河内・枚岡の東大阪市3医師会は、それぞれ認知症対策、在宅医療研修、病診連携、市民シンポジウム開催、在宅緩和ケア対策、医療マップ・在宅ハンドブック、孤独死対策――の7委員会を組織。
 布施医師会副会長の巽祐子氏は、メンバーに医師・歯科医師・薬剤師・訪問看護師・病院関係者・地域包括支援センター・ケアマネジャー・行政、の8職種が参画(総勢約70名)する在宅医療の導入に向けた取り組みを総括的に報告。今後の課題として、一般会員の参加促進や、医師会立訪問看護ステーションの有無に伴う事業展開の差、運営経費、医療機関連携における診療報酬上の問題点を挙げた。
 枚岡医師会理事の山中英治氏は、地域の救急病院による後送病床の確保に言及。連携パスの運用や緩和ケア患者とその家族に必ず受け入れを約束する「Pカード」(palliative care card)の交付、更には合同カンファレンスを実施し、医療職同士が顔を合わせることで、円滑な連携につながると説いた。
 河内医師会副会長の大平真司氏(府医理事)は、在宅医療を支援する診療所・病院の医療機能情報の共有を踏まえ、かかりつけ医と病院の医療連携室間で患者受け入れ情報を共有する「在宅医療・介護カード」の活用を紹介。一方、患者を複数の在宅医で支える利点と診療報酬上の不整合を指摘した。

在宅医療コーディネーターの役割 大阪市北区医師会

 次に、在宅医療コーディネーターの役割について、大阪市北区医師会理事の米田円氏が同医師会の訪問看護師をコーディネーター役として育成した経過を講演。既に構築された医療機関ネットワークを基盤に区内8病院の地域医療連携室を結び、主治医のいない患者にリハビリテーションなど複合的ケアを取りまとめた18カ月間・18事例の活動を紹介した。課題として、ケアマネジャーやMSW業務に医療職の専門性を加味した職務の確立、会員に対する病診および診診連携の深化による在宅医療への協働の呼びかけや、区民に対する在宅医療の更なる啓発を挙げた。

病院・地域間のネットワークを拡充 ベルピアノ病院

 「病院からの報告」では、戸田爲久(いく)・ベルピアノ病院長が、「治療を続け、在宅へつなぐチーム医療――帰ろう住み慣れた街、住み慣れたところへ」と題して、戸田氏が属する社会医療法人の取り組みを説示。高齢者の医療・介護・住まい・交流の総合拠点を目指す「ベルアンサンブル構想」の下、平成24年度厚生労働省モデル事業(在宅医療連携拠点事業)として取り組んだ医療・介護連携システムが紹介された。
 当該ケアシステムの特徴に、多職種が参画する院内カンファレンスや併設されている「地域連携・在宅療養支援センター」の活用などを列挙。在宅への復帰に向けた、切れ目のない体制を構築しているとした。また、在宅医療従事者・介護者の負担にも目を向け、レスパイト入院にも積極的に力を入れていると強調。登録医制なども含め、ネットワーク拡充を検討する意向を示した。一方、「一法人の実施には限界がある」と指摘。行政や医師会の強力な関与が必要とし、地域でサポートできる体制づくりに期待を込めた。
 総括で、黒田座長は地域医療と医療・介護双方の連携を実効あるものにするには、市町村が主体的に取り組む必要があると指摘。また、宮川座長は、在宅医療コーディネーターの育成・稼働は、医療側からマネジメント機能の発揮を望む時代のニーズと概括。後方支援体制の窮状に関しては、行政と共通認識を深めつつ、改善につなげたいと語った。

持続可能な制度改革が安心安全に暮らせる施策となるか注視
中尾正俊副会長

 開会あいさつで中尾正俊副会長は、2025年における我が国の将来人口構成比が65歳以上29.2%となり、そのうち75歳以上18.2%と予測されていると紹介。このため、先の国会で成立した医療・介護総合確保推進法に基づき制度改正がなされるとし、介護保険上の介護予防給付が介護予防・日常生活支援総合事業に移行することで、給付削減や利用者の自己負担増を懸念。社会保障制度の持続可能性を掲げる改革が、住み慣れた地域で安心安全に暮らせる施策に果たしてつながるのか、大阪府や日本医師会を通じて厚生労働省に提言したいと述べた。
 加えて、病床の「機能分化」と称する削減策に対し、在宅医療での後送病床が確保されるような状況を目指すとした。そして、本講演を通じ、郡市区医師会の果たす役割を各自治体関係者とも連携しつつ検討願いたいと要請。府医が在宅医療を支える多職種連携を進める核となるように努めたいとした。