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勤務医の窓

手術について思うこと

府医ニュース

2014年6月25日 第2716号

 私は卒後約35年にわたり、消化器外科を専門とする外科医として歩んできた。本稿では、手術について考えてみたい。
 手術前の手洗いの水は、昔は滅菌水で行っていたが、今は水道水で良くなり、手洗いも昔はタワシを使いイソジン液で表皮がはげるほど擦っていた(スクラブ法)が、その後イソジン液で揉み洗いしアルコール擦式製剤の散布(揉み洗い法)で良くなり、ごく最近では水道水と石鹸で手を洗い、その後アルコール擦式製剤をすり込む(ラビング法)のみで良いとなった。
 術後の創部の消毒も昔は毎日イソジン液を創部に塗りたくっていたが、今は創部が浸出液で汚れていれば生食綿球で清拭するだけ。術後の抗生剤の投与も短期間で十分であるとされた。様々な対策により手術部位感染(Surgical Site Infection:SSI)の減少も明らかとなった。昔に先輩より教えられたことは何であったのであろう。
 外科医になった頃の手術創はやたら大きく(big incision)、有名な外科医(big surgeon)ほど創部が大きかったようだ。当時は消化器がんの手術では、拡大手術・拡大リンパ節郭清が予後を良くすると妄信されていて、big incisionが必要だったのだろう。しかし、色々な臨床研究により、症例にあった手術が求められ、余分な拡大手術・拡大リンパ節郭清はされなくなった。昔の常識が現在の非常識となった。
 時代とともに手術創は徐々に小さくなり、腹腔鏡下手術が行われるようになり、創部は本当に小さくなった。臍部からの単孔式腹腔鏡下手術では、手術の痕跡すら判らない患者さんも見受けられる。確かに腹腔鏡下手術は低侵襲で回復も目に見えて早く、整容性に優れ、SSIも少ない。患者さんにとって大変有益な手術法となった。しかし、外科医のストレスは大きい。今は腹腔鏡下手術が全盛で、これができなければ外科医として生きていけない時代になりつつある。
 腹腔鏡下手術の発展は、超音波凝固切開装置等のエネルギーデバイス、鉗子類、自動縫合・吻合器、腹腔鏡画像のハイビジョン化などの手術周辺機器の開発進歩によるところが大きい。腹腔鏡の拡大視効果とハイビジョン画像により、今まで認識しないで手術していた膜構造や血管周囲の微細な神経などが詳細に判明し、出血の少ない精緻な手術が可能になった。
 C社、J社のエネルギーデバイスや自動縫合・吻合器は確かに便利で重宝しているが、2社ともアメリカの医療器メーカーで、使用すればするほど、アメリカ経済に貢献しているのである。診療報酬点数として手術医療機器加算が付くようになったが、購入価格に比べ加算点数が低く病院の持ち出し部分も大きい。また、これらはシングルユースのため、医療廃棄物がやたら増加し地球破壊につながるのではないかと危惧している(患者さんには優しいが、地球にとっては優しくない)。これらを凌駕するような日本製の医療機器の出現を期待している。
 内視鏡手術支援ロボット(これもアメリカ資本)を購入する病院も散見されるようになってきたが、高額な購入費と保守点検費に見合うだけの手術効果があるのか、また、購入したロボットをしっかり使いこなし有効活用しているのか疑問に思っている。日本の科学・工学技術をもってすれば、安価で日本人の体型にあったコンパクトで、その上、機能優秀な日本製の支援ロボット等ができるのではないだろうか? 日本の医療関連企業の躍進を待っている。

大阪市立十三市民病院副院長
池原 照幸
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