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府医ニュース
2014年5月21日 第2712号
19世紀初頭の英国では、産業革命が本格化し、企業資本が成立していった。生産の作業過程が人力や家畜から工場に移っていった時代である。文明化という視点で見れば、経済的な豊かさや鉄道交通などの利便性も当時の人々は手に入れた。一方で、伝統的な社会秩序が産業革命の創造的破壊によって崩れ始めた。当時の経済観は、「市場のことは市場に任せる、そうすれば自然にうまくいく」というアダム・スミスの自由主義経済、いわゆる「古典派経済学」であった。社会主義経済論者であるエンゲルスの著作「イギリスにおける労働者階級の状態」では、企業は労働者を生産するための材料としてしか見ておらず、(そして労働者を守る規制は当然なく)なんと児童による長時間労働まであったと、産業革命の負の側面を生々しく描いている。
官僚・評論家の中野剛志氏によると、19世紀の英国の詩人として有名なコールリッジは、保守思想家でもあった。彼は「文化と文明は違う」とし「文明(商業)の過剰は国家(文化)を衰退させる」と指摘、当時の過度な自由経済主義を批判した。このように、社会主義だけではなく保守の側からも、過去においては「新自由主義的なるもの」を批判したのだ。この部分は、保守と呼ばれる政治家やその支持層が新自由主義と共鳴する我が国の現状とは異なる。
小欄でTPPや新自由主義を批判すると、「君は保守なのに、なぜ現政権を批判するのか」と私を知る読者から質問を受ける。歴史的に形成された伝統的な共同体、持続的な人間関係、安定した社会秩序を尊重してきたのが保守であるので、その社会秩序を壊す行き過ぎたグローバリズムと保守は一致するはずはないと私は思う。数々の規制を外す経済特区構想では、規制のなかった頃の産業革命と同じく、労働条件だけではなく、家族の在り方や地域性を破壊する可能性もある。産業医・かかりつけ医としてとても無視できる話ではないのだ。(真)