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ニーメラーの警句

府医ニュース

2026年6月3日 第3146号

 財務省の財政制度等審議会が、障害福祉分野の費用抑制を求めた。障害福祉サービス費は、この10年で約2倍に増加したとされ、その伸びが問題視されている。しかし、忘れてはならないのは、「増えた」のは単なる数字ではなく、支援を必要とする人々の存在そのものである。
 高齢化や障害認定の増加、医療技術の進歩などを背景に、障害福祉の需要が拡大するのは自然な流れだ。問われるべきは、「なぜ増えたのか」ではなく、「その支援が社会に必要かどうか」である。にもかかわらず、財政論だけが前面に出ると、支援を受ける人々は容易に「コスト」として扱われ始める。
 ドイツの牧師、マルティン・ニーメラーは、ナチス時代を振り返り、「最初、彼らは共産主義者を攻撃したが、私は声を上げなかった」と語った。そして最後に、「彼らが私を攻撃した時、私のために声を上げる者は誰も残っていなかった」と結ぶ。
 この警句が示すのは、社会が「少数者の切り捨て」に慣れていく危うさである。障害福祉費の抑制論もまた、「まずは障害福祉から」という空気を広げかねない。だが、社会保障の削減は特定の人だけで終わらない。次は高齢者医療、子育て支援、そして最後には、誰もが「支えられない側」に回り得る。
 しかも、怒りの矛先は、社会保障で生活を支えられている人々ではない。叩くべきは、真面目に働いても報酬が正当に分配されず、不安と分断を生み出している「構造」そのものである。弱者同士を競わせる社会の先にあるのは、連帯ではなく孤立だ。
 患者団体など当事者は声を上げている。しかし、健全な社会とは、当事者だけに抗議を背負わせない社会ではないか。ニーメラーの警句は、いまなお「沈黙の代償」を問い続けている。(真)