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時事

医療DXは現場を救うか

府医ニュース

2026年6月3日 第3146号

業務効率化・勤務環境改善支援の光と影

 3月19日の社会保障審議会医療保険部会では、健康保険法等改正案の一環として、医療機関の業務効率化・勤務環境改善への支援が示された。背景には、医療人材不足、賃金上昇、物価高、委託費・設備費の増加が同時に進み、従来の人海戦術型の医療提供体制が限界に近づいている現実がある。政府はICT、AI、IoTなどを活用し、少ない人員でも質の高い医療を維持できる体制への転換を促そうとしている。
 今回の支援策では、地域医療介護総合確保基金を活用し、業務効率化・勤務環境改善に取り組む医療機関を支援する。厚生労働省の「医療分野における業務効率化・職場環境改善支援事業」では、ICT機器などの導入により生産性向上を図る病院を対象とし、補助上限額は1施設当たり8000万円とされる。単なる機器購入補助ではなく、計画策定、推進体制、データ提出、成果評価を伴う制度であり、医療現場に実効性のある業務改革を求める内容である。
 一方、令和8年度診療報酬改定でも、医療DXは評価体系に組み込まれた。従来の医療情報取得加算および医療DX推進体制整備加算は見直され、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」が設けられた。医科では初診、再診、入院の各場面で評価が置かれ、マイナ保険証の利用、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービス、サイバーセキュリティー対策などを含む、医療機関全体の情報連携基盤を評価する仕組みとなっている。
 この加算の意義は、単にシステムを導入したかではなく、取得した診療情報を診療現場で閲覧・活用できる体制を評価する点にある。オンライン資格確認で得られる薬剤情報や特定健診情報、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどが有機的に使われれば、重複投薬の回避、診療情報の共有、医療安全の向上に資する可能性がある。記録、転記、文書作成、申し送り、確認作業を軽減できれば、勤務環境改善にもつながり得る。
 しかし、懸念も少なくない。第一に、DXが「人を減らす根拠」として使われる危険である。ICTは医療者を代替するものではなく、人が患者に向き合う時間を確保するための補助線でなければならない。見守り機器、音声入力、生成AIによる文書作成支援などは有用であるが、医療安全や患者対応を犠牲にして人員配置を薄くする口実にしてはならない。
 第二に、医療DXがベンダーの利益確保のための市場拡大策になってはならない。補助金や診療報酬上の評価が付けば、電子カルテ、セキュリティー、連携基盤、AI文書作成支援などの導入圧力は一気に高まる。しかし、医療機関が高額な初期費用、月額利用料、保守費、更新費を負担し続け、ベンダーロックインによって自由な選択や乗り換えが困難になれば、DXは現場支援ではなく新たな固定費増大要因となる。公費や診療報酬で支える以上、価格の透明性、相互運用性、標準化、過大な営業コストの抑制が不可欠である。
 第三に、支援の中心が病院に偏り、診療所や中小医療機関が取り残される可能性がある。診療所でも、オンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ更新、サイバーセキュリティー、予約・問診システム、レセプト対応など、DX関連の負担は増え続けている。専任の情報システム部門を持たない小規模医療機関では、院長や限られた職員が対応を担うことが多い。努力義務だけが広く課され、財政支援が十分に届かなければ、不均衡はむしろ拡大する。(隆)