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府医ニュース
2026年4月29日 第3142号
第161回日本医師会臨時代議員会(定数380人/柵木充明議長〈愛知県〉)が3月29日、日医会館で開催された。当日は令和8年度事業計画および同予算が報告されたほか、各ブロックから19題の代表質問が行われ、日医執行部が答弁に立った。
「大量出血」の医療界
補正予算での「止血」と診療報酬改定で「少し前を向く余裕が生まれつつある」
開会に先立ち、「第32回日本医学会総会2027」について、会頭を務める澤芳樹代議員(大阪府医師会副会長)から開催案内がなされた。
引き続き、柵木議長が開会を宣言。定足数を確認した後、議事録署名人2人(鈴木紳一郎代議員〈神奈川県〉・上林雄史郎代議員〈和歌山県〉)を指名し、議事運営委員会委員8人(近畿からは木下智弘代議員〈和歌山県〉)を紹介した。
開会あいさつで松本吉郎・日医会長は、まず、7年度補正予算と8年度診療報酬改定に言及した。8年度改定においては、インフレ下の賃金・物価上昇に対応するため、日医は純粋な財源の上乗せを強く求めてきたと振り返り、その結果、通常の改定とは別枠で賃上げ・物価対応のための財源を一定程度確保することができたと説明。「今後の道しるべとなる極めて重要な改定」と評した。一方、財務省が長年にわたり医療費適正化の名の下で進めた医療費削減により、医療界が「大量出血」の状態にあると説示。改定の効果の検証は夏頃になるが、補正予算による「止血」と診療報酬改定によって、「少し前を向く余裕が生まれつつあるのでは」と語った。
健康保険法等の一部を改正する法律案を巡っては、OTC類似薬に関する議論など今後、国会で審議される論点に見解を示した。
また、組織強化に関連し、全体の会員数は過去最高を記録したが、高齢化などの影響でA1会員の割合が減少傾向にあると報告。会費をより効率的に使用できるよう、継続的に見直しを行っていると加えた。その上で、日医雑誌・日医ニュースの電子版への移行や、会内会議・委員会におけるウェブ会議の活用推進に理解と協力を求めた。
さらに、かかりつけ医機能報告制度の初回報告が1月から始まったことに触れ、地域における面としてのかかりつけ医機能を発揮するため、対象医療機関がしっかりと対応していくことの重要性を説いた。他方で、1号機能を有しているにもかかわらず、「無し」と報告されている事例を指摘。実態と異なるデータの影響を懸念し、3月末の報告期限後も、4月末までには報告や修正をするよう呼びかけた。
最後に、社会保障を取り巻く環境が深刻化する中で、国民の視点に立ち、記者会見等を含めた様々な手段で医療・介護について主張していくとし、次期日医会長選挙への出馬を表明。さらなる支援を求め締めくくった。
8年度事業計画・同予算を報告
角田徹・日医副会長が、8年度事業計画および予算について説明。その後、平川博之・財務委員会委員長(東京都)より、1月23日に開催された同委員会において、事業計画案および予算案について審査し、適正であることを確認、承認した旨が報告された。
続いて行われた代表質問では、近畿ブロックから米林功二代議員(京都府)、橋本寛代議員(兵庫県)、友岡俊夫代議員(奈良県)が質問に立った。米林代議員の質問に対しては、茂松茂人・日医副会長が答弁。さらに宮川松剛代議員(府医副会長)が関連質問を行った。
(質問順は議事運営委員会で決定。各代議員の敬称略)
①「我が国の診療所の構造的役割と評価の低さ」廣澤信作(埼玉県)
②「日医かかりつけ医機能研修制度の研修修了証書の申請手続き時期の変更に係る要望」藤倉寿則(神奈川県)
③「令和8年度診療報酬改定率等への日医の評価・課題・対応」池端幸彦(福井県)
④「診療報酬改定に残された課題と今後の日医の対応」米林功二(京都府)
⑤「今後、安心して医療DXを進めるための対策」土屋淳郎(東京都)
⑥「医療DXの推進と現場とのギャップ」橋本寛(兵庫県)
⑦「ACPとDNARの普及」上甲裕継(愛媛県)
⑧「国民に寄り添った医師会からの情報発信」玉城研太朗(沖縄県)
⑨「MAMISの運用評価と今後の展望」伊藤金一(茨城県)
⑩「地方県における県境を越えた2次医療圏の設定の必要性」坂本不出夫(熊本県)
⑪「医師会立看護学校の将来像」友岡俊夫(奈良県)
⑫「医療専門学校の現状打破」大原正範(北海道)
⑬「我が国の医療廃棄物処理体制の脆弱性と医療機関が負う排出事業者責任の限界」秋山欣丈(静岡県)
⑭「地域医療を守るために」本間博(岩手県)
⑮「これからの医師育成」市来能成(宮崎県)
⑯「新規会員獲得のあり方と会員サービス」川上一恵(東京都)
⑰「精神科オンライン診療における安全確保と運用の適正化」野中雅(北海道)
⑱「医療秘書の今後」伊藤伸一(秋田県)
⑲「医師国保組合の存続・合併に対する支援等」清水正人(鳥取県)
澤芳樹会頭(府医副会長)は、総会のメインテーマ「医学のレジリエンス」に触れ、コロナ禍を乗り越え、今後起こり得るパンデミックに備え、「医学・医療のレジリエンス力が人類を救っていく」ことを議論し、多くの人々が、レジリエンスについて世界へ発信していくことに期待を寄せた。また、松本吉郎・日医会長と門脇孝・日本医学会長を招いた会頭特別企画のほか、各セッションを紹介。「医師会と医学会が連携した、これまでにない医学会総会にしたい」と力を込めた。
米林功二代議員(京都府)は、30年振りに3%を超えるプラス改定により、公定価格である診療報酬に一定の改善がなされたが、依然として課題も多いと憂慮。少子高齢化を乗り切るための医療のあり方や、その費用負担の視点から診療報酬を議論すべき時期に来ていると訴え、地域の医療提供体制を維持するための診療報酬改定に向けた、日医の見解を質した。
答弁に立った茂松茂人・日医副会長は、今回のプラス改定について、医療界が一丸となって対応した結果であり、インフレ下での今後の道しるべになったと指摘。特徴として、物価対応料と入院・外来ベースアップ評価料が、令和9年度に8年度の2倍の点数に引き上げられる点を挙げた。そのほかの新たに導入された各評価にも触れ、地域ごとに構築されてきた医療提供体制への影響を注視しつつ、適切な検討と見直しを進めながら、中央社会保険医療協議会での議論に臨む姿勢をみせた。
関連質問では宮川松剛代議員(府医副会長)が、かかりつけ医の現場では、改定後も「血のにじんだ状態」を解消できないと発言。これに対し茂松・日医副会長は、そのような会員の思いを「心に刻んでいる」とし、現場の窮状がより伝わるよう引き続き対応していきたいと答えた。
橋本寛代議員(兵庫県)は、厚生労働省が示す標準型電子カルテα型の位置付けと、その導入を含むDX推進費用を政府が全額負担すると考えて良いかを質問。また、これまでの医療DX推進に対する評価や高齢医師などが取り残されないための対策が必要と訴えた。
長島公之・日医常任理事は、標準型電子カルテα型は標準型電子カルテ導入版に名称変更されていると補足し、政府が法律で定めた「令和12年末に普及率約100%」とする電子カルテの要件に該当すると説明。法的に普及は政府の責務とされたことから、費用も「国が全額負担すべき」とした。日医が掲げる医療DXは、安心で質の高い医療の提供と現場の負担軽減が目的であり、国の方針はそれに資すると評価する一方、拙速な推進には改善を図ってきたと述べた。さらに、高齢医師やより小規模な医療機関は電子化への対応が困難な場合が多く、義務化は地域医療崩壊につながるため、現状のままでも医療活動ができる環境を守っていくとまとめた。
友岡俊夫代議員(奈良県)は、少子化や高学歴志向、看護師の待遇改善の遅れを背景とした定員確保の難しさに言及。日医として全国の看護専門学校の経営実態を把握しているかを問うた。あわせて経費削減策として、日医による授業のオンデマンド配信を求めた。
福田稠・日医副会長は、関連団体の調査などを通じて窮状を把握しており、医師会単独での学校運営は極めて困難との認識を示した。その上で、医療職を志してもらうには、一定の給与水準を確保している職域であることを社会に浸透させる必要があり、財源の確保に向けた要望を継続していくとした。また、多様なメディアを用いた同時双方向型、またはオンデマンド型の遠隔授業は法的にも可能と説明。同時双方向型授業の実施には、授業時間や進度などの調整に相当な負担が生じるが、共通の録画教材を活用できればそのハードルは下がり、費用面でも一定の効率化が図れると加えた。一方で、「看護は対面ケアを本質とする専門職」と述べ、バランスの取れた運用体制の大切さも語った。
遠く中東では、イランを巡る緊張が一線を越え、ホルムズ海峡の閉鎖が現実のものとなった。原油市場は敏感に反応し、エネルギー価格の高騰はすでに世界経済の不安定要因となっている。こうした情勢は、やがて時間差をもって日本の医療現場にも押し寄せる。
一方で、今回の診療報酬改定は本体3.09%の引き上げとされたものの、これまでの抑制の累積や今後のインフレを考えれば、十分とは言い難い。多くの医療機関にとって「今回の改定で救われた」と実感できる内容ではないだろう。
そうした複合的な問題意識を抱えつつ、日本医師会代議員会を傍聴した。
まず、医療DXについては「誰一人取り残さないDX」が繰り返し答弁されていた。しかし現場では、単なる操作性の問題にとどまらず、導入・維持に伴う経済的負担、さらに従来は行政側が担っていた入力作業までも医療機関に移されるという構造が生じている。いわば「医療DX小作人」とも言うべき状況であり、この負担と責任の転嫁の中で、現場が取り残されていることこそが問題である。
また、今回の代議員会では、MAMISに関する質問が2題あった。一つは将来展望についてである。現在、日医会員17万8千人全員、非会員13万2千人、合計約31万人が登録しており、会員の約64%、非会員の約26%が利用したと報告された。今後は各種手続き等の関連サービスへの展開が目指されているという。
しかし別の質問では、非会員にもMAMISの利用が開かれている一方で、会員が日医雑誌のデジタル化に協力し発送停止を受け入れた結果、従来届いていたチラシやポスターが届かなくなった点が指摘された。すなわち、非会員にはサービスが開放される一方で、負担を引き受けた会員側のメリットはむしろ縮減しているのではないか――この点は、本紙にも読者から、非会員への無料開放により入会の必要性が薄れるのではないかとの指摘が寄せられていた論点でもあり、その後の質疑応答も興味深く拝聴した。
全体として議事進行は円滑であり、回答者からのユーモアある答弁に笑いも起き、周囲の出席者からも評価の声が聞かれた。しかしながら、議論がより深まり、複数の理事者が応答するような場面があってこそ、議会としての健全性と緊張は担保されるのではないか――そのような印象を持った。とりわけ会長の追加答弁には、本音と苦悩、そしてその中でどの選択を引き受けるのかという覚悟がにじんでいたように思われる。(真)