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「TACO」の煙幕を見破れ――交渉における恐怖の内面化

府医ニュース

2026年1月28日 第3133号

 昨年の「トランプ・ショック」を覚えておられるだろうか。トランプ氏の過激な言辞に市場は一時狼狽したが、混乱はほどなく沈静化した。市場が彼の交渉の「手口」を学習したからである。
 その手法は、米国では皮肉を込めて「TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつも折れる)」と呼ばれる(この呼称に本人が強い不快感を示したことでも知られる)。まず実現困難な要求を突きつけて相手を揺さぶり、反応を引き出した上で、最終的に自らの望む着地点へ導くやり方だ。
 皮肉としてのTACOとは別に、その交渉プロセスを私なりに整理すれば、過激な要求で相手を圧する「T(Threat=脅し)」、本音を伏せたままの「A(Ambiguity=曖昧さ)」、御用新聞などを通じて世論を動員する「C(Confusion=混乱)」を経て、実利的な「O(Outcome=出口)」へ誘導する戦略と捉えられる。
 重要なのは、この手法が相手の判断力そのものを奪う点にある。先の見えない不透明感が意図的に作られることで、冷静な比較や検証は後景に退き、「最悪を避けたい」という心理だけが前面に押し出される。
 この構図は、診療報酬改定を巡る様々な動きにも当てはまる。メディアを通じて「医師の所得」を標的化し、極端な数字を提示する手法は、まさにTACOの再演である。
 にもかかわらず私達は、「言うことを聞かなければ、財務省からもっとひどい目にあうかもしれない」と、演出された不透明感に狼狽する言説に出会う。曖昧さの裏にある本音を見抜かぬまま最大限の譲歩を差し出すことは、決して避けねばならない。
 守るべきは数値の辻褄ではなく、日本の医療の持続可能性である。相手の描いた出口に飛びつくのではなく、我々自身が正しい出口を突きつける時が来ている。会員諸氏の「何かがおかしい」という声こそが、それを後押しするものと信じている。(真)