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府医ニュース
2023年11月29日 第3055号
令和5年9月25日、日本のエーザイ株式会社と米国のバイオジェンが共同開発したアルツハイマー病新薬「レカネマブ」が日本でも承認された。同様な作用機序(抗アミロイドβ抗体)を持つアデュカヌマブが米国食品医薬局(FDA)により3年6月に承認され、標準価格で年間2万6500ドル(約390万円)と高額になっている。
アミロイドβ(以下Aβ)は脳内で塊を作る過程で数や形態が変わっていくが、どのAβに結合するかが、レカネマブとアデュカヌマブで異なると考えられる。レカネマブを2週間に1回投与した患者は1年半後、症状の悪化がプラセボと比べて約27%抑えられたという。対象は、アルツハイマー病の早期および軽度認知障害(MCⅠ)の人である。免疫反応でAβを取り除き進行を遅らせることができるが、壊れた神経細胞は修復できず、根治薬ではない。
昨年11月に米国で実施されたアルツハイマー病臨床試験会議では、最終治験(P3)で2年後の状況を予測した結果、プラセボ群に比べて7・5カ月進行を遅らせるという効果が示された。日本認知症学会理事長の岩坪威氏は、この薬剤は「以前より症状を改善するという薬ではないので効果を実感するのは困難であるが、長い経過の中でゆっくりと症状が進み、見方によっては認知症とのよりよい『共生』を長い期間にわたって実現できる可能性があることが期待される」と述べている。
しかし、MCIのすべてがアルツハイマー病に進展(コンバート)するのではなく、進展するのは年間約10%とされている。一方正常に戻る(リバート)例もあり、14~44%と決して軽視できない。実施できる医療機関は認知症の専門医がいる医療機関で、①MCIのうちアミロイドPETや脳脊髄液検査で脳にAβの蓄積を証明②レカネマブの副作用である脳浮腫(12.5%)や脳の微小出血(17%)などのアミロイド関連画像異常(ARIA)を定期的にMRIでチェック③ARIAのチェックは同一機器で撮影した画像を同一専門医が読影④2週間に1度1時間程度かけて外来点滴――などの制約があり可能な医療機関は限られる。
エーザイは、2030年頃にMCIの人または早期アルツハイマー病の患者の1%(約6万人)が実際に投与されると推計している。年内には薬価が決まると思われるが、エーザイは介護費用の負担軽減を評価しての薬価を求めている。いずれにしても高額になることは避けられず、大きな医療費の負担となることが想定される。