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医師会立休日診療所の休止に思う

府医ニュース

2023年6月7日 第3038号

行政の主体性放棄に警戒を
大阪狭山市医師会 芝元 啓治

 大阪狭山市の「医師会立休日診療所」は、本年5月8日以降休止としました。
 府内のほとんどの地区では、休日診療所は行政が運営主体(市町村立)です。大阪狭山市は、平成17年2月に美原町が堺市と合併で美原区となり、18年度に当時の市長の判断で従来行政が運営してきた休日診療所は廃止されました。
 当時の辻本雅一・本市医師会長が「公益事業として医師会立休日診療所の開設」を唱えられ、20年に内科のみで医師一人・事務一人の体制で運営を開始、これまで行政からの補助金なしで赤字計上しながら運営してきました。
 「赤字事業をなぜ続けるのか?」との一部会員からの声もありましたが、何とか継続しました。しかし、しょせん我々地区医師会の財政的基盤は脆弱であり、私は医師会長に就いてから「行政運営の休日診療所」の再開を機会あるごとに(来るべき新型コロナウイルス対策としての重要性を含め)市側へ要望してきました。残念ながら今日に至るまで再開されることはなく、コロナ禍にあってPCR検査は行えず、治療的関わりも持てずと地域住民の期待に応えることができずに経過しました。
 他方、行政からの緊急依頼の際には、医師会が医師出務等の対応をし、効果が得られた事例もあります。19年、当市内の専門学校で夏季休校直前に麻疹が集団発生し、管轄保健所の依頼により会員複数名が出務しました。午後6時より当日中に640人へのワクチン接種が実施できました。また、新型コロナウイルスワクチンの1回目、2回目集団接種は、保健センターが接種会場の確保・設営、受付・人流コントロール等を行い、医師会・当市訪問看護ステーション協会、薬剤師会の出務により実施されました。直近では、令和4年12月より5年2月までの府事業である「休日発熱外来」に対応しました。この時は、協議により市が主体となり、当市内3病院と医師会より医師・事務員が出務、市内1病院を借りて実施されました。いずれも行政の持つ運営力を主体として医師会等が協力する役割分担で、各活動が実施可能となりました。
 前2例のワクチン集団接種にあっては、近年は個別接種が主流になっているものの、もともと当市では保健センターでの予防接種のうち一部を集団扱いで残しており、その運営ノウハウが生かされました。しかし、府事業の休日発熱外来においては、行政立診療所閉鎖により当市には行政に休日診療所を運営するシステムが残っておらず、運営主体を設定、確認することから始めました。結局、次のパンデミックに対応できるシステムができたというわけではありません。
 今日、行政に経済的原理が持ち込まれ、「赤字事業の廃止、外注、払い下げ」が着実に増えているとの実感が我々にあるはずです。休日診療所が無くとも「ニーズがあれば株式会社医療が利用できるだろう」との楽観論を持つ人々もいるでしょうが、オンライン診療のような場当たり的医療に帰結しないでしょうか。
 一旦行政の事業の運営方法が失われると復活は容易でないと、大阪狭山市医師会は身をもって分かっています。大阪市立住吉市民病院や京都府丹南市での南丹みやま診療所を巡る苦悩が、近い将来の我々の嘆きとならないように、医療における行政の主体性放棄に対する警戒の怠りなきことを、会員諸先生にお願いします。