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時の話題
府医ニュース
2023年5月17日 第3036号
令和2年1月15日、中国武漢から帰国した30代男性が新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)の国内1例目と判明した。以来、多くの死亡者も発生し、コロナは3年あまり感染症分類の2類相当として扱われてきた。ワクチンが全世代で一通り終了し、コロナの経口治療薬も一般流通されたことから、今年5月8日から5類に変更された。経口治療薬としてラゲブリオが4年9月16日、パキロビットパックが5年3月22日、最後にゾコーバが3月31日に一般流通となった。
経口治療薬の有効性は、ラゲブリオは「18歳以上軽症・中等症・重症化リスク有、入院・死亡のリスクを30%抑制(国際共同P2/3試験)」、パキロビットパックは「12歳以上軽症・中等症・重症化リスク有、入院・死亡のリスクを89%抑制(同)」、ゾコーバは「12歳以上軽症・中等症・重症化リスク有・無、症状消失までの時間を約24時間短縮(P2/3試験P3パート)」であった。さらに、日本、韓国、ベトナムで実施された治験で、服薬当初から症状が比較的強く出た集団について、ゾコーバ投与群とプラセボ群を比較して、咳、倦怠感、味覚・嗅覚異常などの14症状の半年後の有無を調べた。症状発現がゾコーバ投与群14.5%、プラセボ群26.3%と報告され、ゾコーバはプラセボとの比較で後遺症の相対リスクを45%低下させた。
4年8月18日にラゲブリオ(2357.80円/カプセル)、5年3月15日にゾコーバ(7407.40円/錠)とパキロビットパック600(1万9805.50円/シート)、同パック300(1万2538.60円/シート)が薬価収載され、いずれも5日間投与で高価となるが、当分の間公費で負担される。
ゾコーバの薬価収載を巡っては、年間市場規模が1500億円を超える可能性が否定できないとして、事前に中医協で算定方法を議論する「高額薬剤ルール」が初めて適用された。ラゲブリオとゾフルーザを比較対象とし、両剤とゾコーバの類似性は「同等」として、両剤の一治療薬価の平均値をゾコーバの薬価とし、「有用性加算(Ⅱ)」を上乗せした。厚生労働省は、再算定時の引き下げ率上限などについて「年間販売額3千億円超」となった場合に、3分の2を上限に引き下げる案を提示し、診療側、支払側ともに了承した。
3つの経口治療薬は、3剤合わせても新規感染者の1割にも処方されていない。その中でラゲブリオが9割を占める。妊娠中あるいは妊娠の可能性がある女性は禁忌であるが薬剤併用禁忌はない。パキロビットパックとゾコーバは併用禁忌が多く使いにくい。
厚労省はゾコーバの薬価収載に合わせて、通知を出した。①コロナは対症療法で経過観察できる②高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などがある人に処方を検討する③重症化リスク因子がない軽症例では薬物治療を慎重に判断する――との記載があり、ゾコーバの処方は必要な患者に限るよう注意喚起している。併用投与・妊娠の可能性など禁止事項を確認し、適切な患者に限って投与することや使用の際に文書で説明し同意を得ることなどが明記されている。インフルエンザでは、陽性患者の約8割にタミフルが処方されていることを考えると、コロナの経口治療薬の使用は対照的である。ゾコーバは、症状の強い患者に早期から投与すれば、コロナ後遺症のリスクを低減させることが期待される。