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医師・医療関係者のみなさまへ

時事

糖尿病手帳を持っておられますか?6

府医ニュース

2016年9月7日 第2795号

地域包括ケアにおける中核病院の役割

 新しい方法を思いついた時、診察後に自分が考える医療体制を患者に説明して、その評価を尋ねる。次の患者には少しだけ自分の考え方を軌道修正し、また同じような質問をするという手段をとってきた。医療体制を云々する場合、当初の考えは、ほとんどの患者によって否定されると言っても過言ではない。自分の考えを押し付けるより、患者の考えをくみ上げることに主眼を置かなければならない。患者は病気のことであるから真剣であり、利益にならないものは容赦なく切り捨てていく。それだけに、短時間で全体が理解される文言に成長させなければいけない。
 本稿の連載タイトルは、『糖尿病連携手帳を持っておられますか?』であり、診察室でもこの言葉を連呼した。しかし、当初の考えは脆くも崩れ、全く違った意味に切り取られていくことがしばしばであった。限られた診察時間の中、老若男女、頭の硬柔も様々な患者に、短時間でできるだけ分かりやすく説明するにはどのような文言が良いのか――『糖尿病連携手帳を持っておられますか?』の言葉の意味は分かる。しかし、手帳を持っておれば、何か良いことでもあるのかとの考えが誘導されるから、手帳の意味付けを更に加えなければならない。患者に問いかける言葉としてはいいが、それは「あいさつ」であり、目的とする意味を手短に伝えることはできない。1カ月くらいで廃れた。
 次の文言が、『みんなで創ろう地域の医療』であった。糖手帳を理解し、患者自身が担い手になることにより、「地域医療は患者とともにある」との存在感を出すとともに、患者に理解されうる分かりやすい情報の流通を狙った。自己情報の配信は、患者自身が熱心に取り組むため、医療者が行うより早くて強固である。ただ『地域の医療』が漠然としていて、『みんなで創ろう』といっても患者側にとって『地域の医療』とは一体どういうものを指すのか、そこにどのように糖手帳が絡むのかが分からない。その目的を説明するのに時間がかかってしまった。
 以上2つの文言は、患者には短時間で伝わらなかった。現在は更に問いかけを進化させた。それが、『行く先々で、あんたの病院創るんや』である。当初の目的としていた糖手帳流布の意味は全くない。先日、違う意味で書いた「平面病院」という言葉から拝借したものである。しかし、短時間でも結構理解度が高く、今のところまだ変質していない。また、他のクリティカルパスにも共通する意味でもあり、かつ地域包括ケアにおける中核病院の位置付けを端的に表している。
 私はかねてより、中核病院について、急性期病院として重症患者を受け入れる体制を強化するだけでなく、地域における「情報バンク」という概念を提唱してきた。専門的な観点から地域住民に分かりやすい情報を供給することで、地域に疾患概念を正確に伝えていくことが重要である。その情報はすべての患者を対象とした教育的内容ばかりではなく、患者それぞれの評価を通して、病気の理解を深めるものでなければならない。現場では、個々の患者をどのように捉えていくべきかを説明するものであってこそ、それぞれの医療関係者が利用できる便利なものとなる。院内では多くの医療関係者が他科のカルテを閲覧できる。紹介状という形を採らなくても、その科の医師がどのように疾患を捉えているのかを知ることだけでも、医療レベルは格段に向上する。情報漏洩の観点から、診療所への紹介状以外で個々の患者情報が地域に伝えられない現況下、患者情報には多くの地域医療関係者の要望がある。病院が情報公開することはできないが、患者が自己責任で医療情報を持参することで、院内と全く同じ環境を地域に創出することに関しては、同意する患者が大多数である。
 地域包括ケアは、ある特定の地域のみでのまとまりを目指しているが、患者はその域外で行動することが再三ある。私の患者でも、当院と種子島の診療所を行き来しているケースがある。このような場合でも、顔も知らない種子島の医師や医療関係者に向けて持参された情報は、あちらでもシームレスな医療環境を提供することができる。患者が望めばそこに当院と同じ環境を作る――これが『行く先々で、あんたの病院創るんや』の意味である。(晴)