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時事

糖尿病連携手帳を持っておられますか?4

府医ニュース

2016年6月29日 第2788号

責任分界点と患者参加型体制

 また大規模な顧客情報漏洩事件が起こったが、報道の扱い方が以前より軽くなっている。日常茶飯事の漏洩への感覚まひが原因であろう。情報のグローバル化に伴い海外に原因がある場合も多く、責任の主体が明確ではなくなっている。集団心理では漏洩が許容されても、たったひとつの漏洩で個人が訴訟に走ることもある。
 こうした状況下で医療情報網の責任分界点が議論されている。責任分界点は業界用語で、「電力会社が顧客の設備との間で責任を取らなければいけない境界点」との意味である。電気のような物理的商品では責任の明確な線引きができても、デジタルコピーは責任分界点が無数に生じる。更に得体のしれないウイルスで漏洩すれば、責任の主体すらはっきりせず、医療の信頼性が問われる。これとは対照的に、責任分界点が診察室1点である糖尿病連携手帳(以下、糖手帳)は、発行以来漏洩とは無縁の安全な通信手段といえる。「河内長野の応戦」でも、10年来漏洩の危機は一度もなかった。糖手帳は通信速度が遅いため「飛脚法」と勝手に名付けたが、この方法論が電子回線を利用した医療情報網と比較し、勝るとも劣らない利点があるので紹介する。
 電子カルテで作成された糖手帳では、手渡した時点で患者が病態を理解し、電子通信網よりも速く患者に情報が伝わる。内容が詳細なため、電子カルテには「糖尿病サマリーを本人承諾の下、手渡した」と文言を記載する。この行為で糖手帳は患者の管理下に置かれ、当方は診療行為としての指示権を失うものの管理責任はなくなる。内容に関する責任は残るが、他の診療情報提供書と同じく医師の診断行為であるため、やむを得ない。あえて指示権を失う不確定要素を持たせる行為こそ、河内長野の応戦10年の経験がある。
 糖手帳を渡した後、患者には「糖手帳に記述された個人情報は、地域の診療所に持って行けば診療に役立つかもしれない」と、地域医療に関する内容を伝えた。これに同意した患者が、診療所へ糖手帳を持参し、自己判断で個人情報を開示したり、更には「診療所から『あの紙もらってきてください』と言われました」などの申し出が増加したりしたのである。当方が持参を義務付けたわけではなく、患者が役立つと思えば、患者は自由意志で持って行くのである。まさに「患者の意志」という不確定要素の上に立脚するシステムである。
 この方法は「糖尿病連携手帳を持っておられますか?」運動も同様である。患者には「地域包括ケアという多職種が努力しているシステムへの参加に興味があります。自分のための医療環境を、自分の手で創りたいと希望されるならば、糖手帳を各医療関連機関に持参し、その効果をご自身の目で確かめてみたらどうでしょう」と助言している。一方、各医療関連機関には、「患者が糖手帳を持参されることがあれば、『体重の安定的1kg減量』にご協力いただきたい」と、内容と直接関係ないことを申し入れている。これは体重の安定化による代謝改善を狙ったもので、この程度の助言であれば、診療所での治療に干渉せず、むしろ薬物効果が安定して発揮できるのではないかと目標設定したものである。当科発行の糖手帳は、あくまで「主治医の患者概念発信」であり、システムとして持参相手方に記入や回答を強要するものではない。病態をどのように捉え、解釈しているのか分かりやすく表示し、患者が自分の病態を認識し自己管理できるよう、データ表とともに患者に託したものである。利用価値があると思えば、患者は各医療関連機関に持参するであろうし、ないと考えるならば保管しておけばよい。しかし、持参して自分のための医療が次々と構築されていくことを体験することも可能であり、それは「患者自身が持参する」という努力にかかっている。各施設においても、糖手帳に利用価値があると考えるなら、次回も持参してもらえるよう患者と対話した方が良いし、糖手帳から得た知識を会話に反映することも患者にはプラスであろう。1kg減量はこれに関する潤滑油にすぎないのである。
 患者が自らの責任において糖手帳を持参する飛脚法は、同意と理解の下、地域包括ケアに参画する中心的役割を担うことから、他の高速通信法にはないシステム体系を提示していると思われる。(晴)