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府医ニュース
2025年6月18日 第3111号
新型コロナウイルスのパンデミックは、日本の医療供給体制の脆弱さを浮き彫りにした。感染拡大時には、病床や人手の不足が深刻化し、通常医療の制限や救急搬送の困難が全国各地で発生した。特に、人口当たりの保健所数が少ない地域ほどコロナ関連死の割合が高いという分析もあり、保健所の削減政策がパンデミックの影響を増幅させたとも言える。
だが、こうしたコロナ禍を経験したにもかかわらず、政府は今なお「病床削減政策」を推し進めている。実際、削減に応じた医療機関に対し、1床あたり400万円超の補助金が支給され、約7000床の削減が進行中だ。将来的には5万床規模に及ぶとの報道もある。
こうした政策の背景には、「小さな政府」志向と緊縮財政がある。2013年に成立した「社会保障制度改革プログラム法」や財政健全化目標に沿った歳出抑制が、医療分野にも色濃く反映されている。「効率化」の名の下、病床の余剰を排除しようとする流れは、平時には合理的に見えても、有事の備えを削ぐリスクをはらむ。
まるで、かつての減反政策のようだ。米の生産調整により「過剰」を減らした結果、昨今の米不足や価格高騰が生じたように、病床削減もまた「必要な時に足りない」という事態を招くに違いない。社会的共通資本である医療インフラは、市場原理では最適化できない。目先の需給にあわせて切り詰めれば、危機時に脆弱性が露呈するのは当然である。
国会では、こうした政策の下、地域医療の崩壊が進んでいるとの指摘があがっている。特に地方では、病床削減が医療アクセスの格差を拡大させ、必要な医療を受けられない地域が現れつつある。「選べる医療」「自己責任の医療」といった美名は、公助が充実し広い選択肢があって初めて成立する幻想にすぎない。
医療政策に必要なのは、〝効率〟ではなく〝備え〟の視点である。削るのではなく支えること。国政選挙を控える今、政府の役割を問い直す時期にきているのではないか。(真)