泥に咲く梅

　２０２３年２月に発生したトルコ・シリア大地震。
　マグニチュード7.8。世界最大級の内陸地震となった。４００㌔メートルにわたる地殻変動を起こした横ずれ型で、１９９５年の阪神・淡路大震災の22倍のエネルギーだそうだ。周期が比較的長いキラーパルスにより強い揺れとなり、柱や壁が連鎖的に崩れる層崩壊が起きた。各階のフロアが重なる様子がパンケーキに似ていることからパンケーキクラッシュと呼ばれる現象で、複数のフロアが平たく押しつぶされ、隙間なく折り重なるため、建物内にいた人は逃げるスペースが確保できず、生存率が低くなるそうだ。死者は５万人を超える。建築の不備やシリアの内戦など、救出作業の難航は、天災だけではない要因も指摘されている。

春の星　こんなに人が
死んだのか　照井翠

　２０１１年３月11日東日本大震災発災時、釜石で高校教師をしていた作者は、生徒の指導をしていた。犠牲者になりかねなかった。

しら梅の　泥を破りて
咲きにけり　照井翠

　梅は他の花に先駆けてほころび始める。待ちわびる春の象徴だ。おそらく樹木全体がかぶっていたのだろう泥の層を突き破り、清らかな花を咲かせる姿からは、生きていく強さが伝わる。
　２００時間以上経過した瓦礫の中から少女が救い出されたという報せや日本を含む各国の国際緊急援助隊の医療チームの活動を知ると、ほっとするし、勇気がわいてくる。喪失、恐怖、絶望。大きな災害の前で一人の人間はもろい。しかし、それを乗り越えることができる、とても強い存在なのだと信じる。（颯）