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時の話題

「学校健診」のあり方を考える

府医ニュース

2023年3月15日 第3030号

社会が変化しても健康教育の中心

 学校健診のあり方を巡って様々な意見が学校医を悩ませている。平成28年から規定され、内科学校医が担っている側弯検診もその一つである。
 島根県出雲市で行われた学校健診では、着衣では側弯症の発見率は半分以下になるとの報告があり、着衣のままで行うのであれば見落としのリスクを保護者や、生徒に納得してもらうことが必要であるとしている。また高性能の聴診器であっても心音は正しい位置で聴取する必要がある。下着の着用がスムーズな聴診を阻害することは事実である。
 このような健診精度の保持に欠かせない健診環境の整備は国、および地方公共団体ならびに学校の設置者の責務であることが「学校保健安全法」に明示されている。しかし健診時の脱衣に関しては、思春期の生徒達を健診中に盗撮した事件の記事がより過敏にさせている。
 議論が紛糾する中、令和3年度に「診察や検査などに支障のない範囲で、発達段階に合わせた児童生徒のプライバシーの保護に十分配慮すること、脱衣を伴う場合はその必要性やプライバシーへの配慮を含む実施方法について丁寧に説明し、理解を得ること」と記載された、文部科学省通知が発出された。発達段階とともに重要視されているのが、多様性の課題である。健診現場では女子生徒だけでなく、男子生徒も脱衣に躊躇することがあると言う。学校の立地する地域により生徒、保護者の健診に対する理解度に差がある。国籍の異なる生徒の多い地域では、宗教上の問題から健診が困難な場合がある。LGBTQの課題を抱える生徒への対応も必要となり、包括的性教育の必要性が強調される中、ともすれば人権問題に波及しかねない。
 大阪府医師会学校医部会は、大阪府教育委員会と協働して「学校健診の在り方検討会」を立ち上げた。生徒、保護者への説明を含む環境整備、事後措置の全責任は学校の設置者および教育委員会にあることを改めて共通認識としている。健診精度を維持するために脱衣による健診を基本とするが、小、中、高校と年齢に配慮し、健診精度を維持できる下着の着用範囲を確認した。様々な理由で学校健診を受けられない生徒には医療機関での個別健診が勧められ、健診結果の提出を確認する必要がある。
 課題の少ない地域においては現状の健診スタイルを踏襲していただきたいと考えている。トップダウン方式で一律の方法を規定しないのは、多様性への配慮低下を危惧するためである。社会の変化に伴って、健診のあり方も変化して行くが、健康教育の一環として学校健診がその中心にあることは変わらない事実である。