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つれづれなる多様性

府医ニュース

2023年2月15日 第3027号

 医療DX時代だが、依然として、SNSにも疎い。
 「徒然草」は、ブログやツイッターの元祖かもしれないと耳にして、久しぶりに一読した。鎌倉時代末期から南北朝時代にかけての歌人・随筆家、吉田兼好(卜部兼好)の随筆だ。
 たとえば、92段「初心の人、二つの矢を持つことなかれ」。後の矢があると思えば、ついつい懈怠の心が生まれてくる。毎回一本の矢に集中すること。弓を射るだけでなくすべてに通じるだろう。一刹那。今という瞬間を意識して即座に実践することがいかに難しいか。
 また、86段。三井寺の法師は、特別に「寺法師」と呼ばれていた。三井寺が延暦寺の僧侶に放火されて焼け落ちた時、寺法師達はとても傷ついた。「寺も無くなったので、今日からはただの法師と呼ぼう」。ある貴族の言葉に、寺法師である前に、仏道の法師であったと気付く。気の利いた慰めともいえる。
 確かに、ライフハック的な、つまり、「生産性向上のための仕事術」や「暮らしの質を向上させるための生活術」という観点で、この世に生きる術(すべ)を語る段もある。一方で、無常。遁世。心を自由に解き放って生きるのを良しとする段もある。段ごとに多様で、矛盾する部分もあるが、同じ事柄を違った側面から観察した結果の、解釈の柔軟性だと感じた。
 2月15日は、兼好忌。吉田兼好の忌日だ。「つれづれなるままに」「心にうつりゆくよしなしごとを」。時空を超えて、共有するのもいいかもしれない。
(颯)