TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

令和4年度 緩和医療に関する研修会(シリーズ⑬)

府医ニュース

2023年2月15日 第3027号

 大阪府医師会は1月14日午後、令和4年度緩和医療に関する研修会(シリーズ⑬)を開催した。府医会館とウェブの併用で実施され、会員をはじめ看護師や薬剤師など約140人が聴講した。

ケアの質向上が大切に

 開会のあいさつで中尾正俊副会長は、約2人に1人ががんに罹患すると言われている現代、次期がん対策推進基本計画策定に向けて緩和ケアの質の底上げが議論されていると指摘。本会では在宅医療における緩和医療体制の構築に資するため、平成26年度より本研修会を継続的に開催していると述べ、本研修会が日常診療の一助になればと期待を寄せた。
 研修会は大平真司理事の座長により進行し、はじめに、池永昌之氏(淀川キリスト教病院緩和医療内科主任部長)が、「在宅医療におけるがん疼痛治療に関する最新の知識」と題して登壇した。池永氏は、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインについて変更点も含めて概要を説明。また、定期投与されている鎮痛薬により持続痛が良好にコントロールされているケースでも、一過性の「突出痛」が出現することがあると加えた。

「ネガティブ・ケイパビリティ」患者に寄り添った疼痛緩和を

 突出痛への緊急投与には、定期鎮痛薬の10~20%量を目安として有効な投与量が見つかるまでタイトレーションを行うことが推奨されると述べた。さらに、緩和困難な疼痛への対応について言及。痛みの再評価を行うほか、「痛みをゼロにすることはできない」と伝え、QOLの改善などを目標にしていくことも選択肢の一つだとした。
 その上で、どうにも対処できない問題に耐える能力「ネガティブ・ケイパビリティ」の考え方を示した。患者の気持ちを理解し、寄り添うことを大切にしてほしいと呼びかけた。

患者・家族を中心とした緩和医療

 続いて、「かかりつけ医としてのACPの取り組み」と題して原聡氏(原クリニック院長)が講演した。まず、アドバンス・ケア・プランニング(ACP/人生会議)で留意すべき点に関し、「患者・家族・医療従事者の話し合いを通じて、患者の価値観を明らかにすること」を強調した。その中で得られた情報に基づき、これからの治療・ケアの目標などを明確にすることが求められるとし、「話し合うプロセスと患者の価値観を理解し、共有することが最も重要」との見解を示した。
 ACPを阻害する因子には、「本人や家族の要因」「医療・介護側の要因」があるとして、その対応策を説示した。また、自身の訪問診療の経験を語るとともに、医師・訪問看護師・ケアマネジャーなど各職種の役割を提示。患者・家族を中心とした緩和医療を進めてほしいと締めくくった。

ネガティブ・ケイパビリティ(Negative capability)

 19世紀初頭にイギリスで活動した詩人ジョン・キーツが提唱した概念。数多く訳されているが、「問題がすぐに好転しない状況でも、投げ出さず腰を据えて解決法を模索する能力」を指す。第二次世界大戦に従軍した精神科医ウィルフレッド・R・ビオンにより再発見された。