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ハラルとワクチン

府医ニュース

2023年1月25日 第3025号

 池田市はダイハツの工場がある関係で、外国人の方が増えています。そのため、開業の小児科クリニックだけでは、外国人の子どもへのワクチン接種をすべて行うことが難しいことから、池田市健康増進課と検討した結果、平成30年から市立病院でも実施するようにしました。
 外国人の中でも特に多いのが、インドネシア出身の方です。インドネシアは世界最大のイスラム国家であり、病院に来られる方もほとんどがムスリム(イスラム教徒)です。よく知られているように、ムスリムの方は戒律で豚肉を食べることができず、日本でも一部の商店でハラル対応(イスラム教で許された)の食品が販売されるようになってきています。
 令和2年に、あるインドネシア出身の保護者から、ワクチンはハラル対応かどうかの質問がありました。調べてみると、肺炎球菌とB型肝炎以外のワクチンは、製造過程でブタの成分を使用していることが分かりました。ただし、これらのワクチンも最終的にブタの成分は精製されて除去されており、インドネシア総領事館に問い合わせたところ、インドネシア保健省およびハラル認定中央機関は、ほかに予防の方法がない場合には、これらのワクチンを使用してもよいとしているとのことでした。
 これらの内容を記載した文書をインドネシア語と英語で作成し、3年1月からはこの文書を使って説明した上でワクチン接種を行っています。しかし、日本に来られる方は先進的な人が多いのか、あるいは地域や宗派によって戒律の厳しさが違うのか、今まで数十人の保護者に説明をしましたが、ほとんどの方は受け入れてくださって問題なくワクチン接種を実施できています。
 最近になって一人、肺炎球菌とB型肝炎のワクチンだけにしますとおっしゃった保護者がおられました。珍しいなと思って確認すると、最初に問題提起があった方の妹さんで、やはり考えは変わらなかったようです。

市立池田病院副院長・小児科主任部長
尾崎 由和
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