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時事

在宅医療機関におけるBCP

府医ニュース

2022年6月29日 第3004号

平時から検討、有事の選択肢を増やす

 6月15日、厚生労働省「在宅医療及び医療・介護連携に関するワーキンググループ(WG)」第3回の会合が開催された。このWGは昨年10月、同省の「第8次医療計画等に関する検討会」の下に設置され、検討事項の骨子には「災害時や新興感染症拡大時における在宅医療の提供体制」が盛り込まれていた。今回の会合では、災害時の支援体制がテーマの一つとなり、これまでの通知で、災害対策マニュアルや業務継続計画の作成が求められてきたにもかかわらず、在宅医療機関での事業継続計画(BCP)の策定率が低いことが指摘された。
 災害対応マニュアルが、天災(地震や感染症など)、事故(停電など)、人災(テロなど)の発災後、直ちに何をすべきかを定めた、事象ごとの緊急・初期対応マニュアルであるのに対し、BCPはオールハザード(全災害対応型)・アプローチといわれ、原因は何であれ重要業務の継続が難しい事態になった時に発動させ、業務の継続や早期復旧を図るためのものである。災害対応マニュアルによる初期対応の間に、BCP発動の必要性を判断する流れとなる。BCPは作って終わりではなく、緊急時に確実に機能するよう、演習・評価・維持などを行って組織内に浸透させる「業務継続マネジメント(BCM)」が重要となる。
 BCPはもともと、製造や物販など一般企業の領域で進化してきた。ヘルスケア領域にそのまま当てはめることはできず、エスカレーション・ロジックモデルが勧められている。これは、被害の重大性により緊急事態をいくつかのステージに分類し、それに応じた対応を考えておくもので、例えば〝2割のスタッフが出務不能で院内診療可能エリアが5割に制限される場合は、BCPを発動し、業務の縮小や一時中止をしつつ基本的には自機関で対応〟〝5割のスタッフが出務不能で院内診療可能エリアが確保困難な場合は、優先業務も縮小を検討し、外部との連携や支援で外来、訪問診療を継続〟という具合で、状況により移行していく。具体策として、移動・連絡方法、代替手段、患者のトリアージ、関係機関との情報共有方法、業務の縮小や一時中止の具体的手順などの検討が必要である。
 さらに、自施設(機関型BCP)にとどまらず、地域を面と捉えた「連携型BCP」や「地域BCP」が提唱されている。前者は、同業の支援派遣・応需、患者の受け入れ等の相互支援協定を含む、連携によるBCPであり、後者は、地域の総力戦を可能にするための、保健医療福祉の多職種多機関によるBCPとされる。
 「在宅医療提供機関の事業継続計画に係る研究班」のホームページ(https://healthcare-bcp.com/)から、策定の手引き等の資料が入手できる。平時から考え検討することで、有事の選択肢を増やし、想定外の事態におけるアレンジを容易にすることが大切という。
 介護事業所や医療保険の訪問看護ステーションには、令和6年3月末までのBCP策定が義務付けられている。地域の診療所も、COVID―19での経験を糧に、本腰を入れて取り組む時期かもしれない。
(学)