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時事

大阪のカジノ・IR構想

府医ニュース

2022年6月1日 第3002号

地域包括ケアへの影響

 平成28年「IR推進法案」成立を受けて各地方自治体が誘致に動きだしたが、有力候補地(横浜市と和歌山市など)が撤退。現在、長崎県と大阪府・市のみが国内最初の候補地として残った。
 カジノに加え、ホテルやレストラン、ショッピング施設などをそろえた複合施設を総合型リゾート:IR(Integrated Resort)と呼ぶ。そして、IR推進法案は、地域を発展させるための観光促進や税収アップを目的とした法案とされている。
 政府の資料によると同法案で期待できる経済効果は「建設による経済効果」と「運営による継続的な経済効果」の二つがあるとされている。IR施設までのインフラ整備など二次的効果も含め、地域の雇用創出や税収増加も期待できる。
 しかし、これらは持続可能な運営がなされるという条件での話である。コロナ禍で日本の経済的国際的地位が決定的に後進している中、日本の従来の観光資源以外に物価安というメリットしか思いつかない。特に大阪のIRの未来を考えると、海外どころか自国の観光客からも相手にされなくなった90年代バブル期のテーマパークの顛末をIR施設の近未来に重ねてしまう。
 カジノによる経済効果に関しては危惧しなければいけないこともある。カニバリゼーション(共食い)効果と呼ばれるものである。カジノの収益は地域客の負け分が含まれる。その負け分は、もともと地元の商店街で生活必需品などの消費に使われていた(もしくは貯蓄に当てられた)ものと想定できる。つまり、IRで莫大な収益が出る裏には、地域住民や地域企業の負の経済効果が共食いとして出現するのだ。周辺地域の不況や都市の空洞化の可能性もある。
 さらに、医療現場においては、依存症に関する対策が必要である。大阪府は令和2年に依存症対策の総合拠点である大阪依存症包括支援拠点(OATIS)を設置した。これは、平成28年のIR推進法、30年のギャンブル等依存症対策基本法の流れを受けてのものである。ギャンブル依存症はもともと国内には多く存在しているが、さらに増えると予想される。
 経済学者カール・ポランニーは市場原理主義によって人々の人間性が破壊される様子を「悪魔の挽き臼」と呼んだ。IR誘致によって引き起こされるカニバリゼーション効果と依存症増加そのものが、我々の目の前の患者の生活や人間性が破壊される要因となり得る。コロナ禍以前から地域包括ケアの現場では、疾病重症度や介護度では測れない「事象解決の困難例」が多く存在していた。我々医療者も「悪魔の挽き臼」への対策を考える時期にあるのではないか。
(葵)