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府医学術講演会

府医ニュース

2022年6月1日 第3002号

コロナワクチン「誤解と正解」

 大阪府医師会医学会が主催する学術講演会が5月12日、府医会館とオンラインの併用で開催された。今回は感染症シリーズとして、新型コロナウイルス感染症とワクチンを取り上げ、約100人が聴講した。

 この日は、福岡正博氏(府医医学会運営委員会委員/和泉市立総合医療センター名誉総長)が座長を務め、宮澤正顯氏(近畿大学医学部免疫学教室主任教授)が、「新型コロナウイルス感染症とワクチン――誤解と正解」と題して講演した。まず、「新型コロナウイルスは決して未知のウイルスではない」と強調。コロナウイルスは哺乳動物の「ありふれた病原体」だと力を込めた。また、メディア等で散見する「RNAウイルスは変異しやすい」との主張に触れ、各種ウイルスの複製1世代あたりの塩基置換頻度のデータを提示。新型コロナウイルスの変異株出現速度は、「インフルエンザウイルスの半分程度」との見解を述べた。一方、オミクロン株の出現については、突発的な変異ではなく、免疫が低下した個体内において持続感染が起こり、変異を積み重ねたものが伝播を始めたのではないかとの見方を示した。

ウイルスの特徴 インフルとの違い

 次に新型コロナウイルスの感染メカニズムや粒子構造などを詳しく説明した。感染経路については、「ウイルス粒子は、周囲に水がなければ構造が保てない」とし、空気中の飛散ではなく、「感染者の飛沫」で感染するとした。さらに、インフルエンザウイルスとの違いを説明。インフルエンザウイルスは「炎症を起こしやすい」のに対し、新型コロナウイルスは「炎症を起こしにくい」と前置き。サイトカインストーム(大量に産生されたサイトカインによる過剰な炎症反応)は、インフルエンザの方が発生しやすいと加えた。そのほか、インフルエンザウイルスは「獲得免疫ではなく自然免疫で排除される」のに対し、新型コロナウイルスは「細胞傷害性Tリンパ球の反応で排除される」などの相違点を挙げた。

コロナワクチンのメカニズムと将来展望

 宮澤氏は、新型コロナウイルスワクチンについて、ウイルス感染免疫学の見地から解説した。まず、ブレークスルー感染例での鼻腔・咽頭のピークウイルス価は、ワクチン接種でも変わらないとのデータを紹介。一方で、ウイルス排除はワクチン接種群で速くなっているとし、「ワクチンは感染を防いでいるのではなく、ウイルス排除を促進している」と力説した。あわせて、ワクチンによってメモリーT細胞が形成され、それが発症を防いでいる(ウイルスが早期に排除され、排出量も減る)との見解を示した。さらに、ワクチンによる中和抗体に関しては、1回免疫の効果は長続きしないものの、繰り返し免疫することで、抗体価が低下しても「質の良い抗体」が残ると指摘。ワクチンの効果を「抗体価だけで考えるべきではない」との持論を展開し、抗体産生能を欠く例でも重症化せずに回復していると語った。
 最後に、遮断免疫のような感染防御を求めるのであれば、粘膜免疫を誘導できるワクチンが必要だと指摘。今後のワクチン開発でも検討されるだろうと見通した。