拡大鏡

　◆春秋戦国時代の思想家、墨子は諸国の共存のために、自他・親疎の区別なく人を愛する「兼愛」と強大国による侵略戦争を否定する「非攻」を中心とした思想を説いた。墨子はまた、光学、力学などの科学思想を示し、中国の科学技術の源流として「科聖」と称されている。
　◆２０１６年、中国は世界で初めて量子科学衛星「墨子号」の打ち上げに成功した。これは、軍事、金融など秘匿性の高い情報のハッキングや盗聴を不可能にする最先端通信システムで、米国に大きな衝撃を与えた。
　◆米中対立が激化する中、既に中国は将来の世界の覇権を担う宇宙、ＡＩの分野で米国を凌駕している。そして世界は今、コロナ禍の歴史的転換期において、自由と人権が制限され停滞する民主主義国が後退し、専制主義国が多数派となっている。
　◆政治、経済的圧力と物騒な有事をちらつかせて小国・地域を専制主義に取り込もうと企てる大国には、「兼愛」と「非攻」という墨子の思想に立ち返り、世界諸国に信頼される共存の道への将来像を描いてほしい。（誠）