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医師・医療関係者のみなさまへ

第60回 十四大都市医師会連絡協議会

府医ニュース

2021年11月17日 第2982号

新型コロナ対策に焦点
大都市医師会の課題を共有

 第60回十四大都市医師会連絡協議会が10月30日・31日の両日、神戸市医師会の主務によりオンラインで開催された。協議会の2日目に開かれた3つの分科会では、新型コロナウイルス感染拡大時における医療提供体制の確保や医師会の活動などについて検討。また、新型コロナ対策を踏まえた要望事項を盛り込んだ決議を採択した。

 冒頭、主務地を代表し、置塩隆・神戸市医師会長があいさつ。救急医療の確保や病診連携、ワクチン接種体制の構築など、新型コロナへの対応は十四大都市医師会共通の課題と述べ、分科会での積極的な議論を求めた。

第1分科会 COVID―19と救急

 第1分科会では、▽病床逼迫の改善に向けた行政や病院群、医師会間の取り組み▽感染拡大時における救急医療体制の確保▽休日・夜間の応急診療所でのコロナ対応――に関する事例を共有した。大阪府医師会からは鍬方安行理事が、重症患者の受け入れ病院等で構成された「救急集中治療施設メーリングリスト(大阪ECMOネット)」を紹介。患者の受け入れ状況をリアルタイムで共有するとともに、その情報を大阪府入院フォローアップセンターに提供することで、「円滑な入院調整を行うことができた」と語った。
 しかし、感染の第4波では重症患者数が運用病床の数を上回り、受け入れ困難な事態が多数発生した。鍬方理事はこの問題に対し、「中等症患者を診る病床の確保が十分にできていなかった」と分析。多くの病院の協力を得て増床を進めていったものの、「重症と軽症との間をつなぐ役割を果たせなかった」と言及した。
 更に、第5波発生時の状況を報告。重症患者のピークは271例と、「余裕を持った対応ができた」とする一方で、中等症の入院に選別が必要な患者が増加。入院フォローアップセンターの業務圧迫が問題として浮き彫りになったとした。

第2分科会 介護(高齢者施設、在宅での対応)

 はじめに、高齢者施設等におけるコロナ陽性患者の対応について意見交換。「マンパワーの不足」「施設内の感染対策」等が課題とされ、施設嘱託医をサポートする医師の派遣や、ゾーニングの指導といった取り組みが示された。
 次いで、コロナ陽性患者の在宅診療における対応を協議した。府医からは宮川松剛理事が、大阪市内で全国初となる「往診での抗体カクテル療法」を実施したと報告。また、自宅療養者が外来で抗体カクテル療法を受けることができるよう、大阪府が「抗体治療外来医療機関」を整備。感染が広まりを見せた際は、診療・検査医療機関やオンライン診療を行う医療機関等の協力も得て、自宅療養者に受診案内を行うことで、迅速な抗体カクテル療法の実施につなげるとした。
 更に、保健所機能の逼迫に言及。現在、府内の約520医療機関が電話やオンラインによる自宅療養者のサポートを行っているほか、感染の第5波においては府医会館内にも医療機関案内窓口を設置。「保健所を通さない体制を構築した」と述べた。その上で、保健所の機能不全は「長年にわたり統廃合が進められてきた結果」と言明。政策の見直しによる根本的な改善が望まれるとした。

第3分科会 医療情報(ICT)

 新型コロナの感染拡大は、医療の逼迫のみならず、現場を支える医師会の活動にも影響を与え、有事においても柔軟に役割を果たすことのできる医師会の体制構築が重要だと再認識させた。これを踏まえ、第3分科会では事業継続計画(BCP)の策定・運用に関する問題を協議した。
 府医からは、大平真司理事が「新型インフルエンザ対策マニュアル(平成21年策定)」の一部を転用することで、会内対策本部の設置や予防対策の徹底に迅速に取り組むことができたと説明。一方で、新型コロナは感染経路や病態がマニュアルの想定と大きく異なり、会務に支障を来さないためには、ICTの導入などが急務であったとした。また、緊急事態宣言の発令をはじめ、国の感染対策が目まぐるしく変化する中、組織体単独のBCPでは実行性を確保することが難しいと指摘。「日本医師会主導による、国レベルでのBCP策定が必要」との私見を述べた。
 最後に、コロナ禍で急速に発展したウェブ会議について、運用時の問題点を検討。利便性が高い一方で制約もあり、「ウェブ会議への対応状況が施設ごとに異なる」「会場とウェブで得られる情報に格差がある」といった点が挙げられた。


決   議

 2019年12月に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、感染症のパンデミックが、単に歴史上の出来事ではない事を全世界に思い知らせた。流行の波とともに出現した変異株により、若い世代にすら重症患者が散見され、病床の逼迫は言語に絶している。
 病床の機能分化と連携を推進し効率的な医療提供体制の構築を目的とした地域医療構想は、COVID-19の席巻によって机上の空論と化しつつある。経済合理性を重視して保健所の統廃合や感染症病床を削減してきた国の医療政策の弱点が、今回、図らずも露呈される結果となった。ただ、言うまでも無く、この災禍を機に単にそれらを再び増加させるのではなく、平時にも有事にも柔軟に対応し得る病床機能システムの創設や、それを支える医療従事者の育成、必要に応じて業務の外部委託が適宜可能な保健所の即応態勢を構築すべきである。
 また、自宅や宿泊療養施設での療養者に対する健康管理体制の確立は必須の課題ではあるが、後者は要介護者等の患者に関しては入所対象外である。今回、高齢者施設や在宅介護の現場においてクラスターが発生した事例も多く、今後、介護強化型の宿泊療養施設の設置を考慮すべきである。
 感染拡大を終息させるためには、人流の抑制とワクチン接種率の向上が肝要である。COVID-19に対する可及的早期のワクチン接種が奨励された反面、ワクチンの供給が伴わず、地方自治体とワクチン接種の現場は著しい混乱をきたした。国産ワクチンの開発を含む、ワクチンの供給から接種に至る一貫したシステムの確立とともに、ワクチンや治療薬の審査・承認に係る平時と有事のシステム構築が急務である。
 さらに、COVID-19の流行に伴い、初診時からのオンライン診療が一時的に許可されたが、対面診療に比べて得られる情報が限定的であるオンライン診療の安易な適用拡大は厳に慎むべきである。
 国民の生命と生活を守るという観点から、医療は国の安全保障の問題でもある。よって、これらの点を踏まえて以下のごとく決議する。


一、保健所機能の強化、及び平時にも有事にも柔軟に対応し得る病床機能システムの創設と、それを支える医療従事者の育成体制を確立せよ。
一、要介護者等の患者のために介護強化型の宿泊療養施設を設置せよ。
一、ワクチンの供給と接種は、国、地方自治体、医師会の三者が連携して体制を確立し、住民に混乱を生じないよう簡便かつ迅速、確実に実施せよ。
一、ワクチンや治療薬の審査・承認は、平時と有事とで臨機応変に対応せよ。
一、オンライン診療の安易な適用拡大をやめよ。

令和3年10月31日 第60回十四大都市医師会連絡協議会