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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

糖尿病で体が痩せると膵臓が肥える

府医ニュース

2021年2月24日 第2956号

 「2型糖尿病は治癒するか?」と問われたら、ほとんどの専門家は「否」と答えるであろう。しかし少なくとも一部の肥満糖尿病においては、プライマリ・ケアの現場での徹底的な体重管理介入によって“寛解(HbA1c<6.5%、FPG<126㎎/dl、すべての糖尿病薬OFF)”導入が可能であることを示したのが、英国で行われたDiRECT研究である(Lancet 391:541 2017)。
 この研究、対象者の平均BMIは35(平均体重は100㌔超)で、除外基準はHbA1c≧12%、現在のインスリン使用、妊娠糖尿病、一定以上の腎機能障害、心不全などである。介入群は約825~853㌔カロリー/日の食事療法を行っており、対照群はガイドラインに基づいたbest-practice careを受けていた。15㌔以上の体重減少が得られたのは介入群24%、対照群0%、また上記寛解達成率は体重減少の程度に依存しており、<5㌔で7%、10~15㌔で57%、≧15㌔で86%であった。
 さて、最近このDiRECT研究のpost-hoc解析の結果が報告された(Lancet Diabetes-Endocrinology online October 20, 2020)。今回、解析されたのは達成された体重減少とMRIを用いた膵臓形態との関連であり、体重管理介入群、対照群と、管理群と患者背景を一致させた非糖尿病群で比較検討している。「なんだ、事後解析か」と軽くみてはいけない。結果が出なかったデータを眺めて「なんか物にならないかな~」とため息をついたのはミミズクだけではあるまい。ここは「事後解析の何が悪い!」と、肩をもっておく。
 Base lineの膵体積は糖尿病群で61.7±16.0立方㌢、非糖尿病群で79.8±14.3立方㌢であった(p<0.0001)。24カ月経過した時点で、体重減少を達成した群では膵体積が平均9.4(6.1~12.8)立方㌢増加したが、非達成群では6.4(2.5~10.3)立方㌢の増加に留まった(p<0.0008)。またMRI画像のフラクタル次元解析によれば糖尿病群では非糖尿病群に比べて膵辺縁が不整であったが、体重減少達成例でのみ辺縁不整の正常化がみられた。なおフラクタル次元というのは「細部を拡大すると全体に似てくる(自己相似性)」のことで、樹木、カリフラワー、雲の辺縁などがそれにあたる。この数学的解析手法は20数年前からマンモグラフィーの腫瘤辺縁形状解析などに用いられている(Am J Med Sci 311:211 1996)。
 糖尿病で体重を減らせば膵臓の姿・形が回復するのかもしれない。今回の結びは、徳川家康の重臣、鬼作左こと本多重次公の有名な短文からお借りする(返せないが)。「一筆啓上火の用心 目方増やすな 膵肥やせ」。