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時の話題

求められる国民の気持ちに沿ったメッセージ

府医ニュース

2021年2月3日 第2954号

減少傾向であった自殺者数が増加

 昨年1月に日本において初めて新型コロナウイルス感染者が認知されてから1年が経過した。この間、感染者数は増減を繰り返し、昨年4月と今年1月に緊急事態宣言が発令された。先の見通せない状況が長期化するにつれて、国民の精神的な疲労が徐々に増している。
 警察庁の自殺統計によると、令和2年11月の自殺者数(1798人:速報値)は、対前年同月比182人(約11.3%)増加。また、同年1月から11月の累計自殺者数(1万9101人:速報値)は、対前年比426人(約2.3%)増加していた。
 自殺の多くは多様・複合的な原因・背景を有し、様々な要因が連鎖する中で起きていると考えられている。そのため、原因をひとつの要因に求めることは難しいが、原因として、▽健康▽経済・生活▽家庭▽勤務▽男女▽学校――における問題などが指摘されてきた。今後の検証を待たなければならないが、コロナ禍により、精神的負荷、経済・生活的困窮などの要因が強まったことが自殺者数の増加に関与したことは、容易に想像される。
 厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」は、昨年12月21日に「コロナ禍における自殺の動向――10月の自殺急増の背景について」を公表した。それによると、昨年10月に自殺者数が急増したのは、①新型コロナの影響により、社会全体の自殺リスクが高まっていること(自殺の要因となり得る、雇用・暮らし・人間関係等の問題が悪化していること)に加えて、②相次ぐ有名人の自殺および自殺報道が大きく影響した可能性(ウェルテル効果の可能性)が高い。つまり、新型コロナの影響で様々な悩みや生活上の問題を抱え、あるいはもともと自殺念慮を抱えながらも、「どうにか生きることに留まっていた人達(4~5月に自殺行動に至らなかった人達を含む)」に対して、相次ぐ有名人の自殺および自殺報道が多くの人を自殺の方向に後押ししてしまった可能性があると考察している。
 コロナ禍では、感染対策として経済活動の抑制を余儀なくされている。その結果、国民生活への影響は既に多方面に及んでおり、特に非正規雇用者が多い若年層、女性に対してはより深刻である。昨年4月の緊急事態宣言発令時においては、懸念された自殺者数の増加は見られなかったが、コロナ禍の長期化につれて7月からは、増加に転じている。
 今回、第3波とされるこれまで以上の感染拡大により、2回目の緊急事態宣言が発令された。既に多くの国民が長期にわたる強いストレス下におかれている現状を考えると、不安、焦燥感が高まり、更には抑うつ的となる国民が顕在化するのではと懸念される。マスコミのみならず、政府・行政・専門家・医師会等からの発信については、少しでも不安を軽減できるように、より一層、国民の気持ちに沿ったメッセージとなることが求められる。