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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

虚血耐性の臨床応用

府医ニュース

2021年1月27日 第2953号

血圧計で脳梗塞の予後を改善する

 平成17年から認可されたt―PAによる急性期血栓溶解療法により、脳梗塞の予後はかなり改善された。しかし、t―PAといえども著効が得られるのは一部に留まり、麻痺が残存する患者も少なくない。リハビリテーションの重要性は言うまでもないが、ここは何かローリスク・ハイリターンな治療の登場が待たれるところだ。そんなうまい話があるのか、と誰しも思うが、「瓢箪から駒」ならぬ「血圧計からカフ」という手があるかもしれない。「意味不明だ!」というご指摘は重々承知している。
 「虚血耐性」なる現象がある。要するに軽度の虚血負荷が、将来のより大きな虚血負荷に対する耐性を誘導し得るというもので、動物実験では明瞭に示されるらしい。ヒトでもTIAを経験していると脳梗塞が軽症で済む傾向があるとする報告(Stroke 30:1851 1999)もあるが、65歳以上の高齢者ではそのような耐性獲得はみられないという論文(J Stroke Cerebrovasc Dis17:257 2008)もあって、結果は一定していない。
 TIAと脳梗塞の関係は時間的関係からみると“ischemic pre-conditioning(IPC)”なのだが、不思議なことに虚血負荷は事後でも有効で、しかも脳血管ではなく遠隔臓器の血流遮断“remote ischemic post-conditioning(RIPC)”でも有効とする考えがある。
 そこで中国の西安交通大学のグループはt―PA治療を行った患者68人(平均年齢65歳、平均入院期間11.2日)を対象とし、血圧計のカフ加圧(両腕5分間加圧/3分間解除を40分繰り返す、1日2回)を介入としたランダム化試験を行った。介入群、対照群ともに34人で両群の入院時の重症度や入院期間には差がなかった。研究のエンドポイントは3カ月後の修正ランキンスケールでの無症状(0点)と有症状だが明らかな障害なし(1点)の割合だが、介入群71.9%、対照群50.0%と介入群で良好な結果が得られた。
 著者らは血液マーカーも検討していて、介入群では対照群に比較し、血漿S100β蛋白の低値と血管内皮増殖因子の高値を認めた。単純に考えれば梗塞部位でのS100β逸脱に付随したラジカル産生が抑制され、修復機転が高まっていると言いたいのだと思うが、ちょっと話がうますぎる気もしないではない……。ただ、この介入はほぼノーリスクに近い。
 無論、これで脳梗塞におけるRIPCの効果が直ちに証明されたわけではないが、remoteかつpostが有効ならpre-conditioningも効きそうだ。ミミズクは毎日40分×2の血圧測定をしようか、今思案中である。