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大阪府医師会「地域医療確保・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」緊急開催

府医ニュース

2021年1月20日 第2952号

医療界が総力を挙げ国民を守る

 大阪府医師会は、有識者および在阪5大学附属病院・公立病院・病院団体に呼びかけ、令和2年12月13日午前、府医会館において「地域医療確保・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」を緊急開催。4時間近くに及ぶ同会議の意見をまとめた要望書を14日に大阪府、17日までに国の関係省庁へ提出した。なお、15日には同会館で記者会見を行った。

 新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は、感染の第2波が収束しないまま、10月中旬から再び急激な感染拡大を見せ、第3波に入った。
 大阪府は、11月18日の新型コロナ対策協議会において「フェーズ4」宣言を行い、各医療機関に対し至急病床確保の要請を決定した。しかし、12月に入っても実際に運用する重症者病床の利用率が、80%を超えるなど医療提供体制が逼迫する日が続いていた。
 本会議は、新型コロナ治療にあたる最前線の医療実態を把握、議論し、今後の医療体制を早急に整えるべく開催した。

地域医療の在り方などを幅広く議論

 冒頭、茂松茂人会長はあいさつで、府内約1500床の新型コロナ専用病床確保は、現場の努力の賜物と謝意を表した。その上で、現在の新型コロナ対応や地域医療の在り方などを幅広く議論し、国民の命・健康を守りたいと述べた。
 なお、「大阪府から大学附属病院に対する更なる病床確保の緊急要請」ならびに「大阪市における新たな1専門病床確保に1千万円の支給方針」は、現場の苦しい実情を改めて示すものと言及。あわせて感染症流行や救急災害時などに対応できるよう、医師や看護師への教育、更に介護や清掃業者などへの研修の必要性を強調した。
 また、人の動きを一旦止めなければ、市中や院内感染、施設クラスターは増え続け、医療崩壊に至ると指摘。「大阪の医療界が総力を挙げ難局を乗り越えたい」と力を込めた。

当面は重症者病床の取り組みが課題

 続いて、宮川松剛理事が、これまでの府医の活動状況などを報告。今冬は、かかりつけ医と保健所が互いの機能を補完し、発熱患者の診療・検査を行う体制を整えているが、当面は、重症者病床の運用が課題であると述べた。
 また、鍬方安行理事が3次救急病院の重症者病床の取り組みを報告。感染の第3波において、「フェーズ4」移行期の実運用病床の増床が鈍く、一時的に強い逼迫状況が発生したと説明。なお、大学附属病院の病床確保に過度の負担がかからないよう配慮を求めた。
 その後、参加者から新型コロナ専門病床の状況や地域医療への影響などについて報告・要望がなされた。

専門病床への転換 他部門の病棟閉鎖

 まず、新型コロナ専門病床への転換について、各病院では、▽複数の病棟閉鎖▽HCUをICUとして対応▽救急部門の一部縮小――などを行い、閉鎖病棟から医師・看護師などを専門病床に転属。大阪市立大学医学部附属病院では、十三市民病院に一部人員を派遣している実態が報告された。
 佐々木洋・大阪府病院協会長は、大阪府から国立・公立病院の病床に対し「重症・中等症・軽症の更なる病床の確保要請」があったことを明らかにした。

要請を受けるには、各病院が2~3病棟を閉鎖し、通常診療や一般救急、および不急の手術を縮小する必要があると指摘。また、公的病院はその性質上、行政からの要求が過多となるが、その役割分担の検討を改めて要望した。
 生野弘道・大阪府私立病院協会長は、これまで民間病院も、PCR検査対応やホテル療養者の医療サポートなど陰ながら支えてきたと言明。なお、新規感染者の病床確保の重要性は理解しているが、「感染対策と経営」の双方を考えねばならないと危機感を示した。また、透析患者対応は、病院のゾーニングや療養先の受け皿が今後の課題と提起した。

救急受け入れ縮小 不急の手術を制限

 第1・2波感染期には、救急患者の応受率の30%低下や一時期は受け入れを停止する病院も中には見られた。また、手術数も同様に、ICUが必要となる高度手術が制限されるなど10~30%程度の縮小があり、地域医療に影響を及ぼしている実態が判明。第3波感染期では、各病院が救急受入数および手術数ともに削減率を抑えるよう努力を重ねているが、クラスター発生次第では難しい状況になるとの声も挙がった。現に、一部地域の救急指定2病院でクラスターが発生。受入体制の大幅減から、既に医療崩壊が始まっているとの意見も出された。

重症軽減患者の転院 基準の明確化が必要

 重症者病床が逼迫している中、新規患者を早期に受け入れる体制が必要となる。しかし、重症から中等症に軽減、また治癒後加療が必要な患者を転院する病院がなく、その基準や調整機能が必要との要望が続出した。
 朝野和典氏(大阪大学大学院医学系研究科感染制御学講座教授)は、軽症・中等症患者の場合は10日で感染力がなくなり、重症患者も20日で感染力が落ちると説示。政府がその基準を明確に発信し、各病院間などでコンセンサスを図ることが重要との見解を示した。
 そのほか、▽陽性が疑わしい者への対応▽公的・民間病院間や診療所の役割分担▽治癒後のフレイルのケア(リハビリなど)――の課題が挙げられた。

大阪コロナ重症センターの位置付け

 12月15日から運用する大阪コロナ重症センターについて、運営主体である大阪急性期・総合医療センターから、「ECMO装着が必要な患者は、3次救急などにお願いし、その病状管理が落ち着いた後、人工呼吸器の必要な患者などを当センターが受け入れる」とのコンセンサスを会議の参加者に求めた。

医療従事者の疲弊にメンタルケアも実施

 新型コロナ専門病棟や病室などレッドゾーンには、介護や清掃などの業者は入れないため、看護師が食事や排泄の介護、病室の清掃を行わざるを得ず、疲弊している実態が列挙された。また、救命救急センターでは、3次救急と並行して新型コロナ重症患者を受け入れており、対応する従事者へ精神科によるメンタルケアを実施するなどサポートしている機関も見られた。
 なお、新型コロナに対応・非対応の職員間での意識に大きな差が生じ、不平も出るなどの実例報告もあり、問題は山積している。

国民の行動変容には効果的な情報発信を

 朝野氏は、リスクコミュニケーションの観点から、医療側から「病床逼迫」や「医療従事者の疲弊」だけを訴えても、国民の行動変容にはつながらず、良い情報の発信も効果を出すには必須であると助言した。
 最後に、大竹文雄氏(同大学院経済学研究科教授)は、国民の行動を促すには、▽身近なクラスター事例などの周知▽他人のための感染予防の促進▽自身の取り組みの伝達と同様の行動要求――も必要と指摘。また、感染による発症が少ない若者世代には、主に経済的な影響が大きい点を伝えるべきであると結んだ。

会議出席者(有識者・病院・団体)
朝野和典氏(大阪大学大学院医学系研究科感染制御学講座教授)、大竹文雄氏(同大学院経済研究科教授)
大阪大学・大阪市立大学・大阪医科大学・関西医科大学・近畿大学の各附属病院
大阪医療センター、大阪急性期・総合医療センター、大阪市立総合医療センター、大阪市立十三市民病院、りんくう総合医療センター
大阪府病院協会、大阪府私立病院協会、大阪府医師会

要望書

 さて、新型コロナウイルス感染症の蔓延状況、重症病床の逼迫度に鑑み、先般、大阪府「医療非常事態宣言」が発令されたところでありますが、第3波については、第1波・第2波に比べて、急速・大規模に拡大しています。医療側は社会的使命を果たすため、文字通り、懸命な対処に努めていますが、医療従事者と病床には限りがあるため、新型コロナの対応現場は切迫した状況になっており、一般医療を犠牲にするなど、通常医療の提供にも支障が及び始めています。医療現場の第1線に従事する方々からは、事態を改善するため、現場の状況を的確に社会へ示し、新規感染者数の削減に向けて社会的に取り組んで欲しいとの声が多数挙がっています。
 このため状況認識、問題意識の共有をはかるため、12月13日に本会主催にて「地域医療確保・新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」を開催し、府下5大学病院、一部の公立病院、病院団体に出席いただき、意見交換を図りました。
 その結果、今後の対策において、下記事項への取り組み強化をお願いしたいとの認識で意見が一致しましたので、お知らせいたします。
 貴殿におかれましては、事情をご理解いただき、至急に施策反映賜りますようお願い申し上げます。


1.医療の危機的状況に鑑み、新規感染者の発生防止に向け、社会的に警告を発し、3密回避・不要不急の外出自粛など、具体的取り組みへの協力を求めるべき。特に高齢者施設におけるクラスター発生の予防に全力を尽くすべきである。また、発生防止の必要性を社会的に理解してもらうため、医療従事者の懸命な取り組みを、併せて社会へ提示してもらいたい。
2.入院中感染者の症状緩和時や、陰性確認時などに、効率的な病床活用のため、病床調整のシステム構築を早急に整備してもらいたい。
3.医療崩壊を避けるための経済的支援策を講じられたい。
 ①新型コロナ感染者受入指定病院及び指定以外病院でも、感染者を受け入れた場合について、更なる診療報酬上の措置を講じてもらいたい。
 ②疑似症例の入院対応について、更なる診療報酬上の措置を講じてもらいたい。
 ③陽性患者について、特定入院料の算定期間上限を撤廃し、入院期間に関わらず特定入院料を評価していただきたい。
4.大阪コロナ重症センターは、緊急対応として既存の重症病床を空けるための後送病床であり、運用規定の周知徹底をお願いしたい。
5.院内感染対策のため、医療従事者を対象として、研修を行ってもらいたい。また、院内清掃等をアウトソーシングできるように、関連業界を啓発し、環境を整備してもらいたい。
6.地域医療計画及び地域医療構想は、新興感染症や地震・風水害等の対策など地域が求める医療への配慮が欠如しているため、その一環として作成された医師確保計画の医師数・専門医数減少政策は廃止すべきである。