TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

年末恒例

本紙編集委員が振り返る重大トピックス

府医ニュース

2020年12月30日 第2950号

コロナとファッション

 ステラ・マッカートニーが、ファッション界にサスティナビリティーの波を起こしたのは偶然ではない。ミレニアムを越えた頃より、環境問題は世界の大きなテーマになってきた。ファッション界で取り組むべき問題は、ファストファッションによる大量生産と大量廃棄であり、環境問題に配慮した行動が大きなうねりとなっている。
 サスティナブルファッションは、天然素材によらない物作りや最新のリサイクル技術による新しいアイテムの創造がコアであり、アンチファー、オーガニックコットン、そしてオートクチュールなどによる、長く愛せる本物がトレンドである。美しいものは我々の心の中に大きな喜びをもたらすが、唯一のファッションもまた幸せとの邂逅である。パンデミックがもたらしたものは、真に良いものを永く着るというマインドであろう。
 パリ、ミラノ、ロンドンのファッションウィークでは、初めてオンラインとなったが、ラグジュアリーブランドの世界配信は、ランウェーの布ずれの音や顔に漂う風を超え、多くの人々とのディスタンスを縮めたファッション界に、新しい夜明けの一筋の光を感じさせる。
(晴)

コロナ禍とエンターテインメント

 私は観劇を趣味としている。常に複数回の演劇のチケットを確保していて、それを楽しみにして、日々の診療や医師会活動、日常生活を送ってきた。一言で言うなら「鼻先のニンジン」である。
 今年秋頃になって、何か息が詰まるような気がしてきた。これが巷で言われる「コロナ疲れ」かと思ったが、はたと気付いた。「鼻先のニンジン」なしに走り続けていたからである。
 今年4月に出された緊急事態宣言以後、一時はほぼすべての舞台公演が中止となった。各劇場のサイトが公演中止のお知らせで真っ赤になっているのを見るのは痛々しかった。演劇は舞台に出ている俳優以外に多くの裏方によって成り立っているが、その人達も仕事がなくなったわけである。
 非常事態の時、命に関わることから遠いと思われる分野から中止になる。演劇の起源は古代ギリシアに遡ると言われている。なくても直接命には関わらないが、古今東西、人類が必要としてきたから、演劇などのエンターテインメントは存在し続けてきたのだと思う。
 12月現在、様々な感染対策を行いながら、多くの舞台公演が再開している。どれだけ対策をすれば良いのか、また中止せざるを得ない事態にならないか、絶対的な正解のない中で、関係者は薄氷を踏む思いで日々の公演を行っていると思う。
(瞳)

中医協が診療報酬改定について答申

 2月7日に中央社会保険医療協議会(中医協)が総会を開催し、診療報酬改定について厚生労働大臣に答申した。在宅医療においては、質の高い在宅医療・訪問看護の確保を目的に18項目が記載された。
 ①「複数の医療機関による訪問診療の明確化」は、地域における質の高い在宅医療の提供を推進する観点から、複数の医療機関が連携して行う訪問診療について、当該医療機関間において情報共有の取り組みを行った場合に、依頼先の医療機関が6カ月以上訪問診療を実施できるよう要件を見直した。②「在宅療養支援病院における診療体制の整備」は、在宅療養支援病院について、24時間往診が可能な体制の整備に係る要件を明確化する等で、往診を担当する医師は、当該病院内に待機していなくてもよい旨を明確化した。順調に進まない24時間往診体制に対する対応策であり、対応可能な医療機関の優位性が更に高まる可能性がある。
 ③「小児の在宅人工呼吸管理における材料の評価」④「在宅自己導尿における特殊カテーテル加算の見直し」に続く、⑤「機能強化型訪問看護ステーションの要件見直し」は、人員配置基準について一部の看護職員は常勤換算による算入を可能とするとともに、看護職員の割合を要件に加えた。⑥「医療機関における質の高い訪問看護の評価」は、医療機関からの訪問看護について、一定の実績要件を満たす場合に訪問看護・指導体制充実加算を新設した。
 以下、⑦小児の訪問看護に係る関係機関の連携強化⑧専門性の高い看護師による同行訪問の充実⑨訪問看護における特定保険医療材料の見直し⑩精神障害を有する者への訪問看護の見直し⑪医療資源の少ない地域における訪問看護の充実⑫同一建物居住者に対する複数回の訪問看護の見直し⑬同一建物居住者に対する複数名による訪問看護の見直し⑭理学療法士等による訪問看護の見直し等、訪問看護に関する改定が多く見られた。
 その他、⑮小規模多機能型居宅介護等への訪問診療の見直し⑯患者の状態に応じた在宅薬学管理業務の評価⑰在宅患者訪問褥瘡管理指導料の見直し⑱栄養サポートチーム連携加算の見直し――も記載されており、入院医療の受け皿となり得る在宅医療の推進には、多職種の専門職の参画が必要とされていることに気付いた改定であると思いたい。
(中)

ALS患者嘱託殺人事件のこと

 医師のひとりとして衝撃を受けたニュースが、2人の医師が犯した「ALS患者嘱託殺人事件」だった。生きる希望を失った筋萎縮性側索硬化症(ALS)の51歳女性患者に依頼され、薬物投与により死に至らしめた事件。関わった医師達は依頼した患者の主治医ではなく、インターネットのサイトで知り合い連絡を取るようになったとのこと。
 本来の主治医が患者の安楽死願望に取り合わなかったことから、患者はネットを頼り安楽死の実行を依頼したというが、この事件の重大さは医師資格を持つ者が法的に認められていない安楽死を請け負い、しかもSNSで、ということだ。患者のために為すべき医療を苦労しながら果たしている我々からすれば、安直にこのような手段に行き着くものか、理解に苦しむ。ALS患者の苦痛、苦悩は想像を絶するもの。悲観的願望に走るのも分からなくはないが、強い意思で苦難に立ち向かう感動的な姿を目にすることもしばしばだ。生死に関わる権利を尊重し尊厳死・安楽死を容認する国もある中、我が国では許されていない。
 かつての外科学会において、コーナーが設置されたこともある漫画『ブラック・ジャック』。主犯の医師はこれに登場する「高額の報酬で安楽死を請け負う医師ドクター・キリコ」に自身を重ねていたというが、虚実を判断できない幼稚さが透けて見える。作者の故手塚治虫氏も、現実には起こり得ない、いや、起こしてはならないからこそ発想を飛躍させたに違いないのに。
 SNSの功罪はともかく、両医師には資格の適合も含め厳罰が下って然るべきだ。小筆も改めて姿勢を正し、医学部入学時に講義を受けた「ヒポクラテスの誓い」を反芻した。(禾)

2度目の住民投票否決どう総括すべきか

 11月1日、大阪市民は2度目となる「大阪都構想」を巡る住民投票に臨んだ。都構想と言っても大阪府が大阪都になるのではない。大阪市を廃止して府と統合するかどうか、そして、市を再編し4区の特別区となるかを問う投票だった。
 5年前、重大トピックスとして住民投票を取り上げた。そこに「紙の上では進歩的で美しい理論や思想も、盲信し追求すると弊害が生じるのだ。それらを防ぐには、大衆のように未来志向や見せかけの平等・目新しい改革に飛びつかず、常に警戒を怠らない姿勢、つまり保守的な態度が必要である」とまとめている。その思いは今も変わらない。
 前回と今回の住民投票の違いは2点ある。1点目。5年前の投票日前日、橋下徹市長(当時)は街頭演説の中で「明日、納税者をなめた連中を潰す」と大阪府医師会を名指しで批判した。今回はそれがなかった。憲法第15条によると、そもそも首長含む公務員は全体の奉仕者である。特定の住民や職業専門団体に対して、市長の「潰す」という発言自体あってはならないことだ。
 2点目の違いは選挙がコロナ禍の中で行われたということ。賛成・反対ではなく、投票の延期・中断が議論されるべきだったのではないか。GoToトラベル同様「(感染拡大との関連を示唆する)エビデンスがない」から行って良いとはならない。医療崩壊に直結するようなアウトカムが予想される場合は、控えるという選択肢もあって然るべし。特に、無駄を省けと小さな行政と緊縮を目指してきた大阪府では、新型コロナ再流行で悲惨な結末となることは十分予想できた。
 政治的事柄に対して医療とは無関係、口を出すべきではないと忠告をする人がいる。しかし、政治が選択・決定する行政の枠組み変更や経済政策の結果、命に直結する事態が起きている中、そのような姿勢で良いのか。都構想自体は今回も否決されたが、大阪市民、府民のために奉仕する医師会員として、為政者にどのような要望をすべきだったか総括は必要であろう。
(真)

コロナ禍と「合理性の衝突」

 「学際的」という言葉が使われ始めたのは1970~80年頃であったと思う。異なる分野を跨った研究の必要性が認識されるようになった。様々な分野が急速な発展を遂げる中、分野ごとに法整備が行われてきたが、結果的に分立化が進んだ。分野間を跨いだ法整備や調停術が存在しないために、全世界で深刻な問題が生じ、多くの国際機関が林立するに至った。
 2000年頃、法哲学者トイブナーは、「国家間の利害や政策による衝突よりも、社会の分野ごとに形成された合理性同士の衝突が、より重要になった」と指摘した。加えて格差社会の進行が貿易摩擦を生み、国家間の対立まで、更に深まっているのが2020年の状況であったと思う。折しも、コロナ禍の下で、「医療的合理性」と「経済的合理性」が激しく対立し、揚句に我が国の状況をみるに、医療分野の知見を充分、生かすことなく、かといって万全な経済政策で下支えするわけでもなく、「弥縫な政策を強権で押しつける」形に陥っているのは残念なことである。
 分野ごとの正義が暴走すれば、やがて自己破壊に至ってしまう。いずれにせよ分野ごとの正義の衝突の解決には、既存の整備済み法体系を傘にする実定法主義などではあり得ず、真・善・美を重んじる自然法主義的な価値規範が求められる。倫理上の失敗を侵さず、分野ごとの規範を尊重しつつ、共存を図るにはどうすべきか?奇しくもVUCAの時代にコロナ禍が人類に突きつけた難問である。(猫)

新型コロナウイルスと食

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛が報道され始めた3月以降、来院されていなかった40歳代前半の男性が、介護支援を希望し再診された。幼少時からの視覚障害があり、白杖を持たれてはいるが、自立を望み、独居生活をされている方だった。
 「なるべく自分で頑張ろうと思ってきたが、もう限界。ずっとコンビニ弁当や」。栄養面での不安や、食事内容の画一化などに難渋したと解釈したが、彼は家でのひとりの食事が一番辛いとおっしゃった。誰かと食事をする機会が減ったことが。
 外出自粛で学校や職場からの分断を余儀なくされ、我々の生活すべてが変容した。食に関しては、ステイホームに伴い、外食の機会が制限された一方で、中食と言われる形態、コンビニ弁当も含まれるが、今回は、デリバリーやテイクアウトが更に拡大した。新たな生活様式のひとつとして認知された感がある。
 食事は、家族や友人、職場の同僚と会話が生まれる場だ。人と人とをつなぐ重要な役割を担っている。食事をともにするという行為は、単に生命を維持するだけでなく、食を介したコミュニケーションにより、社会生活の質、幸福度、満足感を決めるものである。オンライン飲み会は、その試みのひとつだったと思う。
 これからも続く新型コロナウイルス感染症との生活の中で、いかに人と人とがともにつながっていけるか、あるいはつなげていけるかが、重要な課題なのだと感じている。
(颯)

コロナ禍と地域のつながり

 4月(大阪では7日)、緊急事態宣言が発令、密なればこそ成り立つ地域のつながりは大きな制約を受けた。5月(大阪では21日)に解除されたが、元通りとはいかず、5月29日に厚生労働省から出された「感染拡大防止に配慮して通いの場等の取組を実施するための留意事項」では、3密の回避やマスクの着用、手洗いなどの一般的事項に加えて、▽歌を控える▽大声を出す機会を少なくする▽息が荒くなる運動は避ける▽飲食は対面を避け横並びで座る▽個別の配膳や個別包装の茶菓を用いる――などが示された。
 孤立化や心身の健康への影響が懸念される中、6月30日に厚労省から、様々な工夫によって、つながりを継続・再開している事例を収集した「感染防止に配慮したつながり支援等の事例集」が公表された。筆者の地域においても、介護保険サービス事業者連絡会などによる「ゆめ伴(とも)プロジェクト」が中心となり、高齢者と介護スタッフが協力して製作した「夢かなえマスク」の配付、「おうちde折り鶴、つないdeアート! かどま折り鶴12万羽プロジェクト」「高校生と高齢者の文通」、3密回避の畑でラジオ体操を行う「おそとde笑おう!プロジェクト」などユニークな試みが行われた。
 地区医師会も含め、組織活動においては、ズームに代表されるウェブ会議システムの導入など、ICTが活路のひとつとなった。対面に比べての不利を補うため、グーグルドキュメントなどのクラウドツールと組み合わせるなど、運営上の工夫も行われている。
 困難な状況下でも、心折れずに頭を絞り、知恵を集める姿勢は素晴らしい。一方で、そうやって凌いだ貴重な時間稼ぎの間に、クラスター分析などで様々な知見が集積され、感染リスクの高いこと・低いことが明らかになっている。それらが十二分に、施策や住民の行動に生かされることを、切に願う。(学)

ノーベル化学賞に「ゲノム編集」新技術

 今年のノーベル化学賞は、ゲノム編集の革命的新技術「クリスパー・キャス9」を開発した2人の女性研究者、ジェニファー・ダウドナ氏とエマニュエル・シャルパンティエ氏に授与された。今ではバイオテクノロジーにおけるゲノム編集技術の主流となっている。平成29年には日本国際賞を先行して受賞しており、本紙第2816号の『拡大鏡』欄にも、iPS細胞に匹敵する偉業として紹介した。
 このゲノム編集新技術は、農畜水産物の品種改良から創薬研究、遺伝性疾患やがんの治療といった医療応用まで、その急速な進歩に多大に寄与している。一般社会では、まだまだゲノム編集に対する認識は薄く、何か危険な技術という印象も持たれている。肉厚マダイ、血圧抑制トマト、毒なしジャガイモなどの開発に注目が集まり、品種改良と言われれば抵抗はないが、ゲノム編集食品と聞けば少々受け止め難い。しかし、昨年、国はゲノム編集食品に対する表示義務はないとしており、既に我々の日常生活の身近にあるのかもしれない。
 また、医療面では、一歩間違えれば、神の領域を犯しかねないことにもなる。30年、中国の研究者が、ヒトの受精卵にHIVに感染しないようにするゲノム編集を施し、双子の女児が誕生したと発表、世界中に衝撃が走った。もちろん、生命倫理を無視したこの行為に激しい批判が集まることとなった。
 新技術で容易となったゲノム編集による研究や製品開発には、何よりも安全性の担保と生命倫理の遵守による慎重さが必要である。その上で、社会に希望を与えるセンスの良い発想の下、発展することを期待して止まない。
(誠)

新型コロナウイルスと病院経営危機――病院支援体制の構築が急がれる

 令和2年初頭に、未知の感染症として始まった新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に世界に拡大した。我が国でも、3月から発症者・死亡者の急速な増加が大都市圏を中心に起こり、緊急事態宣言に至った。結果、4~6月の社会的混乱は目を覆うばかりであった。4~6月期のGDPは、年率換算で30%近く減少。リーマンショックをも超える近年で最大の落ち込みと言われる。医療機関にも厳しい波であった。新型コロナ感染症患者を受け入れている・いないにかかわらず、また、公的・私的を問わず、病院の収支が著しく悪化した。7月、全国1600の主要公的・私的病院が会員となっている「全国公私病院連盟」は、会員病院の4~5月の経営状況の緊急調査結果を公表した。
 外来患者は前年同期から半減。救急搬送の減少幅が大きい。新規入院者は2~3割減。医業利益率は、4月でマイナス9.8%(前年同期比9.9ポイント悪化)、5月はマイナス11.3%(13.0ポイント悪化)と、軒並み大幅な赤字転落である。コロナ受け入れ病院に至っては、病床管理の困難から、更に2ポイント以上、赤字幅が膨らんでいる。新型コロナ患者を受け入れた途端、あらぬ風評を立てられたり、医療材料納入業者が病院内へ立ち入っての搬入を一方的に拒否したり、思わぬ事態に面した病院も少なからずある。夏のボーナス支給時期と重なり、経営判断に苦慮せねばならず、危機感が一層高まった。
 7月に入り、国や都道府県の施策が定まり、新型コロナ患者への外来入院対応が安定の方向となった。ようやくパニックを脱するかと思えた。しかし、4~6月期の大きな損失をどう立て直していくかという11月以降、第1波・第2波を凌駕する感染患者、ことに重症者の波が押し寄せている。7月と同様の体制では、重症患者用病床が絶対的に不足する。たとえ病床を拡充しても、スタッフの確保が極めて難しくなっている。病院経営危機の第2波となりつつある。府下では、病院数の9割、病床数の8割、救急入院数の7割を私的病院が担っている。今回も、公的および私的病院の協調で体制が構築されている。公的・私的を問わず、病院の疲弊は長期的な視点でも医療体制に大きな損失となる。病院経営危機への行政・市民の理解と支援が必須である。
(翔)