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公助なき世、どこで最期を

府医ニュース

2020年12月2日 第2948号

 11月16日早朝、渋谷区のバス停ベンチで座っていた64歳の女性が死亡した。女性は午前2時からバス始発の時間まで今年8月からほぼ毎日バス停にいたという。亡くなった際の所持金は8円。身なりはきちんとしていたものの、路上生活者ではないかとされている。
 地域包括ケアシステム推進事業で「住み慣れたところで最期まで」というスローガンを用い、私は地元で活動していた。高齢対象者の疾病重症度と介護度を参考に生活環境を把握、互助と共助(相互扶助)を用いその方の生活(自助)の下支えをする。ケアシステムにはそういうイメージを持っていたし、厚生労働省の資料にもそのようにあったと理解している。そして、相互扶助で解決できないところは「公助」で、とも。
 今回の被害者は地域包括ケアシステムの対象者ではない。しかし、事件に遭遇する前に「公助」で救わなければならない人だったかもしれない。バス停で毎晩過ごさねばならない事情とともに、夜休むための住居がなかったのだろうと思われる。
 成長戦略会議の民間議員の竹中平蔵氏が過去に「私達はこれからすごく長寿の時代を生きることになります。たとえば100歳まで生きるとすると、90歳くらいまでは働くことになるでしょう」と雑誌で発言していた。「それならば公的サービスの削減をやめ、むしろ充実してくれ」と唇を噛んだ記憶がある。
 公助なき世を新自由主義者および政府が推進しているように感じるのは私だけであろうか。高齢者になって住むところさえ安定しない、こんなことが間近に迫ってきたのに、私はかつて「住み慣れたところで最期まで」というスローガンを立てた。今、恥ずかしい思いでそれを悔いている。公助なきこの世に、同じところで最期まで快適に過ごすなど、ハードルの高い目標だったのだ。
(真)