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医師・医療関係者のみなさまへ

本日休診

どこで過ごすかは誰が決める?

府医ニュース

2020年10月28日 第2944号

 86歳の彼女は、半年に一度の採血でも特に異常値を認めない長年の高血圧患者である。独居で、一人息子さんは他県で暮らしている。5年前の夜の帰り道、駅のプラットホームで電車を待っていると改札から彼女が歩いてきた。声をかけると、隣駅のスーパーのタイムセール狙いで買い物に行くのだと話していた。先日は早朝5時過ぎ、駅の階段で彼女に出会った。今から電車を2つ乗り継いで病院の清掃業務に向かうという。
 彼女は仕事をやりがいと言うが、一人暮らしの寂しさを紛らわし生活費を稼ぐためとも言った。息子さんは同居もしくは施設入所を勧めており、金銭的には問題ないはずと言うが、独居を望む彼女は先行きが不安だという。
 長男は私に、近所付き合いもない母が心配だと電話をかけてくる。私もそれとなくではあるが、しっかりと自分の考えも持っているので独居もひとつの考えだと思うと話した。しかし、独居高齢者に対してかかりつけ医ができること、介護保険でできることには限界があると伝えるが、長男は完全な安全策を求めてくる。彼女に施設に入るよう説得してほしいとも。
 どこで過ごすかまでは、結局本人と家族の意思と話し合いだと思いますよ、として電話を切った。しかし後日、「主治医があまり母親のことを考えていない」との話を聞いた長男の嫁から電話があった。どこで過ごすかを決める主体は第三者ではなく当事者ではないかと説明するとお嫁さんは理解してくれた。
 他者に迷惑をかけたくない高齢者と心配する家族。公助なき世の自助、共助では、我々医療者が患者の生活を支えるには限界がある。家族にも生活があり、そして、デフレ不況の中、楽ではないだろう。やはり、目の前のことだけでなく、家族を想う時間・精神・金銭の余裕のなさが問題なのだと改めて思った。(真)