TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

調査委員会だより No.71

府医ニュース

2020年9月2日 第2939号

在宅医療の推進により医療費を削減できると思いますか? 文 岩本 伸一(東成区)

 在宅医療の推進について、現場の医師、そして府民は、医療費削減の観点からどのように考えているのだろうか。厚生労働省は在宅医療を含む地域包括ケアシステムの目的は効率的な医療、ケア提供とその質を高めることであり、医療費の抑制が目的であると言明したことはないようである。1)
 本年2月に行った会員意見調査では、表題の問いに対して「はい」26.3%、「いいえ」28.4%、「わからない」45.2%であった。20歳から30歳代の会員では約40%が「はい」と答えているが、40歳から60歳代で「はい」と答えたのは25%前後にとどまっており、在宅医療に取り組んでいる世代の会員は決して医療費削減につながっているとは考えていないようである。平成31年に調査委員会が行った、府民を対象とした同一の設問においては「はい」が63.1%「いいえ」が36.9%(「わからない」の選択肢なし)で年齢別の差異は認められず、会員調査とかなりの乖離が認められた。府民は在宅医療が医療費削減施策の一環であると感じているのだろうか?
 実際、在宅医療には医師、看護師の移動に伴う人件費などの機会費用も生じるため決して医療費が安くはならない(むしろ高い)とする報告も出てきている。1)おそらくは入院医療より高くなる場合と安くなる場合が考えられ、今後在宅医療に返すべき症例とそうでない症例が医療費削減目的にて選別されてくる可能性もある。
 大阪という大都市圏での地域医療提供体制を考えるとき、地方とは異なる在宅医療の費用対効果(効率性)と地域医療構想(病床数コントロール)との合致、そしてACPを含めた終末期医療の在り方などを包括的かつ丁寧な説明とともに進めなくてはいけないのではないだろうか。

1)二木立「地域包括ケアと医療・ソーシャルワーク」第1章、P22~23