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二百十日

府医ニュース

2020年9月2日 第2939号

 今年の二百十日は、8月31日だった。この頃に吹く、野の草を吹き分ける強い風を「野分」と呼ぶそうだ。台風の古称とされている。
 1914年に歌人の与謝野晶子が発表した随筆『台風』の中に、「台風と云ふ新語」という表現がある。「野分には俳諧や歌の味はあるが科学の味がない。気象台から電報で警戒せられる暴風雨は、どうしても『台風』と云ふ新しい学語で表はさなければ自分達に満足が出来ないのである」と書かれている。「野分と云ふ雅びた語の面白味を感じないことは無いが、それでは此吹降に就ての自分達の実感の全部を表はすことが不足である。近代の生活には科学が多く背景になつて居る」。
 この随筆から100年以上経過した今日、台風は巨大化・強力化している。進路予想は精密になったが、各地の被害は甚大だ。2018年9月4日、近畿を直撃した台風21号は記憶に新しい。道路には壁や屋根の破片が散乱した。停電は広域にわたり、信号機が止まり、あちこちで渋滞が起きた。自宅も診療所も、2日以上停電した。ただ、散乱した瓦礫を隣近所と一緒に災害ごみ置き場へ運んだり、診療再開後に受診してくれた方々やスタッフたちと被害状況を報告し合ったり、人との絆の大切さも経験した。
 台風ではないが、今年はすでに、「令和2年7月豪雨」が発生し、九州・中部地方などに甚大な災禍をもたらした。加えて、コロナ禍が、復旧作業を遅らせたと聞く。
 災害対策にもパンデミック感染拡大防止にも、いまや「科学」は必須である。そして、その実現のために人とのつながりや協力も大切なのだと思う。
(颯)