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時の話題

地域医療構想

府医ニュース

2020年9月2日 第2939号

新興感染症のパンデミック時 どう対処するかの視点が必要

 国は、「地域医療構想策定ガイドライン」を平成27年3月に公表。各都道府県は、国の定めたこのガイドラインに基づき、平成29年3月までに地域医療構想を策定した。その後、これまで二次医療圏単位で調整会議などが開催され、地域で必要とされる医療の在り方などが協議されてきた。
 地域医療構想は、病床を機能的に4分類し、地域で必要とされる各々の病床機能の多寡を国が定めた基準に基づいて調整を行う。基本的には、とかく諸外国に比べ過剰とされてきた病床数をいかに効率よく削減するかを命題としている。
 かつて昭和58年、当時の厚生省(現厚生労働省)官僚が「医療費亡国論」を唱えた。これは、増え続ける医療費が国の財政を圧迫し、ひいては国を亡ぼすことになりかねないとの考え方である。医療費の需給が過剰であり、効率逓減が必要とされた。
 その後、今日まで国ではいかに医療費を削減するかが医療政策の中心として議論されてきた。つまり、財政支出を抑制するためには、医療を最大限に効率的、合理的に行うかが論点となり、病床数、医師などの医療従事者数、診療報酬などは、抑制を余儀なくされてきた。地域医療構想もそのような考え方に沿ったもので、過剰な病床は、医療費を押し上げる一因となるため、必要最小限に削減したいとの国の考えである。
 国の財政状況が厳しい中、高齢者人口の増加と相まって、医療費などの社会保障費が増加し続ける現状からは、これらの財源を抑制できないかと考えることは、財務当局としてはごく自然な考えかもしれない。
 病床削減が遅々として進まない中、令和2年1月17日、厚労省は「公立・公的病院の再編統合」の再検証を都道府県に通知した。がん、心血管系疾患、脳卒中などの急性期医療の診療実績が少ない、あるいは近隣に診療実績が類似する病院がある場合などの視点から、公立・公的病院でなければ果たせない役割を担っているかの検証を行い、必要に応じて再編統合を求めるものである。
 しかし、今般の新型コロナウイルス感染症の経験から、地域医療構想は新興感染症のパンデミックなどの有事の際の医療提供体制の在り方についての視点が欠落していたと言わざるを得ない。名指しされた公立・公的病院が率先して新型コロナウイルス感染症患者を受け入れていることは周知のとおりである。
 結核の減少とともに各地の国公立病院の感染症病床が縮小・廃止、および一般病床化が進んだ。効率化・合理化を突き詰めるのではなく、今一度、公立・公的病院の存在意義を含めた、地域医療構想調整会議における論点の見直しが必要と考えられる。