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医師・医療関係者のみなさまへ

時事

新型コロナと特措法改正

府医ニュース

2020年8月26日 第2938号

医療現場からの発信

 連日、東京では新型コロナ新規発生が何人というニュースばかりで、甚だ疲れ果てる。
 新型コロナ取り組み優等生であるアジア諸国では、あたかも新型コロナを完全制圧したかのように見えるが、新型コロナと関係のない報道写真で背景に写っている人々のほとんどがマスクをしているという事実は、気を緩めればパンデミックが再勃発する可能性があるということであろう。もし完全征圧したのであれば、マスクの必要性はないからである。すなわち、どこの国でもちょっと油断をすれば、すぐにクラスターが発生するドングリの背くらべ状態なのであるから、経済効率の低下は誤差範囲内と考えられる。
 政府が本年5月25日に緊急事態宣言を解除し、6月19日に都道府県をまたぐ移動を緩和してから、新規感染者数は増加したが、8月になり横ばい傾向である。経済活動と感染拡大の平衡関係を狙う政策は、ある程度定常状態になってきており、次の方法論を模索しているが、現状維持ではなかなか次の段階に踏み切れない。ワクチンのない状態での感染抑制策はほぼ出尽くしており、後はどれだけの人が標準予防策を遵守できるかにかかっている。夜に繁華街を歩くと、飲み屋ではマスクをかけず大笑いをしながら密に語り合う人々の姿が見られる。このような人達が感染拡大を助長しているのではないかという疑惑は常にある。家族感染の実態は捉えにくいが、感染源は不特定多数が集まる場所であろう。
 新型コロナ感染の終着駅で待ち構える我々医療関係者が命を掛けて東奔西走しているにもかかわらず、三密の店があるのは許せない。ならば知事の指導や要請に従わない場合、罰則を与えれば物事は解決する方向に行くのであろうという感情論を持つことはごく自然である。このような路線に沿っているのが、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)改正である。この法律は平成24年に新型インフルエンザの医療への多大な被害を防止するため制定された。しかし、成立当時から実効性を担保するための法律の議論があった。
 本年1月、新型コロナは指定感染症・検疫感染症に指定され、3月14日には特措法に規定する新型インフルエンザ等の対象とみなし、特措法の一部が改正された。しかし国会では論争があった。最終的に新型コロナを新型インフルエンザ等とみなす期間は、施行日から最長2年間のところを来年1月31日までとするなど、国民の自由と権利制限の観点からの意見もあり、1年間に決定された。その後、政府が特措法に基づき4月7日に緊急事態宣言を発令したことは周知の事実である。現在行われている外出自粛やマスク着用の要請、首長による新型コロナ専門病院の指定などは、すべて3月改正特措法の範囲内で実行されている。
 問題点は、なかなか感染が収束しないこと、そして首長の要請に従わない店舗があることだ。現在は要請に応じないときは指示まではできるが、罰則規定はない。知事の権限強化のために罰則規定を設けるには、法律改正が必要であると現在論議されている。反対派の論点は、特措法で新型インフルエンザという文言を新型コロナに置き換えたり、罰則規定を設ける法改正をすぐに行ったりする必要はなく、現行法でできること、例えば▽PCR検査の拡充や標準予防策徹底▽飲食店等の自主的な予防▽特措法改正の議論を尽くすこと――等で対応できるのではないかという考えである。背景には政府の権限強化により、個人の行動制限や、あまり有効でない政策が決定される懸念がある。
 幸いにも発生状況は横ばいになっており、政府も菅義偉官房長官の記者会見のように、法改正に現時点では否定的見解である。現場の悲鳴は法改正にはつながっていない。
 もちろん現状を鑑みての話であるが、もし特措法が改正されたとする。そして患者が発生した周辺の店に知事が休業を指示したとする。店は罰則が怖いからその命令に従うだろう。しかしその態度は後ろ向きであるし、ここから新しい新型コロナ対策アイデアは産まれない。緊急時以外に法律を拡大適用すると、積極的発想は萎縮し、役人が描く既存の方法論の徹底になる。数字は下がっても、内情は変わらない。個々の店舗の自主的な取り組みは非常に重要で、次のステージへ経済活動を持っていくことができる。
 今しばらくは現状が継続すると考えられる中、我々医療関係者がやるべきことは、現場の窮状を常に発信することだ。また、医学的見地から見たアイデアを提示することで、国民に常に緊張感を持った対応をしてもらうよう活動を続けていくことだと思う。(晴)